「おい磯野、バンドやろうぜ!!」

ブランキージェットシティの代表曲のひとつ「赤いタンバリン」には、ちょっと特別な思い入れがある。

高校生の時に、ローンでグレッチ(中古で15万円位する高級ギター)を買うくらいブランキーが大好きな友人に、中嶋がカツオを野球に誘う時のようなテンションで

「文化祭でこれやろうぜ!」と言われた。

ルート弾きメインのバンドスコアを見て
「おっ楽勝やな!!」

と思った自分(後に激しく後悔)に、ベースという楽器、グルーヴの奥深さを身を持って思い知らされた一曲だった。

他には同バンドの「僕はヤンキー」やmad capsule marketsの「神歌」等、明らかに文化祭向けの選曲じゃない曲達を引っ提げて、僕らのバンド

「ハード坊ちゃん」は、結成された。


結果は散々であった。

我々は一部の男子以外にはドン引きされて終了。
女子にはhideやジュディマリ等を手堅くやったバンドが、両手を頭の横で振るあのノリ方で大盛り上がり。「ハード坊ちゃん」は、スゴスゴと機材を纏めて体育館を後にするのだった。


この時思ったね「バンドはモテない!」と。

正確には「(女子ウケするポップなバンドをやらない)バンドはモテない!」と。
まあそもそも文化祭みたいな状況で盛り上がるには普段の行いが重要で、キャーキャー言われたければ所謂リア充・陽キャな学校生活を送っている事が絶対条件で。

普段教室の後ろの方で紙パックのレモンティーで弁当食いながら、男子同士でMDウォークマン回し聴きしつつ「おい、このバンドやべぇから!!」とか言い、放課後はスタジオ練習で速攻下校する様な奴が「文化祭のヒーロー」になるには、カナブンがカブトムシ級の人気昆虫になる位ハードルが高い訳で。
我々日陰者のカナブン男子には、

「あの時、心がひとつになった」
「…音が、届いた。確かに、届いたんだ」

的な、アニメや漫画みたいなキラキラしたライブや、後夜祭にてライブを観た後輩女子から呼び出され
「あの、わたし、感動しました…!」

とか言われちゃう様な甘酸っぺえストーリーははなっからある筈もなく。

その後「ハード坊ちゃん」はメンバーチェンジを繰り返しながら、音楽性の違いや大学受験の為自然消滅。僕自身も社会人になり、バンドはおろかベース自体を触る事も無くなり、今に至る。

もし自分の子供が将来「バンドやりたい!!」と言ってきたら、

「そうか、大いにやれ。ただし、女子にモテたいなら音楽性なんぞかなぐり捨てて、ポップな売れ線バンドをやりなさい。あ、ヴォーカルはイケメン必須な。これ一番大事」

と、伝えよう。