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【読書と感想】#感想っぽ 三千円の使いかた

「三千円の使いかた」
原田ひ香/著
中公文庫 2021年

自分にとってなにが「しあわせ」なのかを
違う立場、違うライフステージの登場人物が
実に生々しく、悩み、考え、選択していく
そんな日々を、実にリアルに描いている
タイトルからは想像し得ない(?)
読み進める手が止まらない1冊だった


就職して理想の一人暮らしをはじめた美帆
結婚前は証券会社勤務だった姉・真帆
習い事に熱心で、バブル期も経験した母・智子
そして一千万円を貯め、夫亡き後も凛と生きる祖母・琴子
「御厨(みくりや)家の三世代の女性を取り巻く「お金事情」
お金をどう貯めて、どう使うか、何に使うか

彼女らを取り巻く登場人物も実にリアルで
「あーいるいる、こういう人」的な、あるいは
「わかるなー、それ」といった具合に
脇役たちを含めた登場人物たちの
リアルな心理描写は枚挙に遑がない

正直なところ
タイトルそして、最初の章を読み始めた時点では
「”これが正しい(賢い)三千円の使い方です”という内容かな?」
と、あまり期待していなかった

しかし、読み進めるうちに
「そうきたかー!」や
「まぁね、その気持ちも分からなくもない」といった感覚

この小説の中にしっかり引き込まれていて
自分や身近な人、母親や姉たちを重ねてみたり
つまり、めっちゃ面白くてどんどん読み進めていた


世代もライフステージも全然違うのだが
わたしはなぜか、(主人公の)母・智子の感覚に
とても(痛いくらい)強い共感を覚えた


どちらかといえば、年齢的に?は
姉・真帆に重なるところが多いはずなのだが…

年齢ではなく、自分がどんな人間関係で
今現在、あるいは人生の多くの時間を過ごしてきたか
このストーリーの、御厨家の誰に自分を重ねるかは
その部分が大きく影響しているかもしれない

わたしも元夫と食卓を囲みながら
智子と同じことを考えていたことがあった…

現在は違う環境、感覚であるものの
あまりにリアルな心理描写が
わたしの記憶を呼び起こしたのだろう

自分が誰とどのように生きていくか
暮らしていくか、選択していくか
それは何気ないことの繰り返しのようで
でも本当はその日々の積み重ねが人生で

「はて?どう使ったのか、わからないなぁ」
という事態にもなり得る金額「三千円」の使いかた
と、けっこう似ているかもしれない

とりあえず、とか
今はなんとなく、とか
今は考える時間ないから、とか
もう少し余裕がある時に考えよう
なんてことを繰り返しているうちに
あっという間に使い切っている
(消えている、なくなっているに近い?)

「こんなはずじゃなかった」の事態になってから
あるいは失ってから、気付いたりする

第一話での、祖母・琴子の
「三千円くらいの少額のお金で買うもの、選ぶもの、三千円ですることが結局、人生を形作っていく、ということ」
という言葉

この言葉の深さが、読み終えたいま、実感できる

三千円のお金の賢い使い方の指南書ではない
マネーリテラシーをつけるための本でもない

それぞれが選ぶことのできる
自分しか生きられない「わたしの人生」
さぁ、わたしはどう生きようか、誰と生きようか
何がわたしの幸せだろうか

そんなことを日々繰り返し考え選択していくこと
時には迷いながらも、それをやめない、あきらめない
それが生きることなのだと教えてくれている

そんな「元」がとれる「節約」家族小説だった

今回の珈琲
・前半→イルガチェフェG1ナチュラル
(YIRGACHEFFE G1 NATURAL/ETIHIOPIA)

・後半→ニブラ
(NIBRA/BRAZIL)

・この記事を書きながら→レッドマウンテン
(RED MOUNTAIN/KENYA)



のっぽ


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