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エレーヌ・フォックス 『SWITCHCRAFT 切り替える力 すばやく変化に気づき、最適に対応するための人生戦略』【基礎教養部】[20240131]

今回のnote記事で扱う本のタイトルは「SWITCHCRAFT 切り替える力 すばやく変化に気づき、最適に対応するための人生戦略」である。タイトルから分かる通り自己啓発書に分類される本である。「自己啓発」そのものに関しての私の考えは約3年前に書いた下記の記事で述べている。

自己啓発に対する考え方は3年前と今も変わってはいないのだが、今回は本書「SWITCHCRAFT」と数年前に流行った「GRIT」という概念との対比という視点から話をしたい。

「GRIT」とはGuts(闘志)、Resilience(粘り強さ)、Initiative(自発)、Tenacity(執念)の4つの頭文字をとった言葉で「やり抜く力」のことを意味する。ビジネス界隈では結構流行った言葉なので知っている方も多いかもしれない。一方「SWITCHCRAFT」とは本書内で定義されているが「切り替える力」のことである。このように「GRIT(やり抜く力)」と「SWITCHCRAFT(切り替える力)」は「力」としては逆の力である。なぜ同じ自己啓発というジャンルの中で「GRIT(やり抜く力)」に対して「SWITCHCRAFT(切り替える力)」という逆の概念が台頭してきているのか。その点から考えていきたい。

まず「自己啓発」の私の定義であるが「自分自身の能力を高めることによって成功を目指すこと」である。そしてそのアプローチの手法として「GRIT」や「SWITCHCRAFT」等がある。前提として私はどちらも大事な力であると思っている。分量の大きな事を成し遂げるためにはやり抜く力は当然必要であるし、その場その場で最適なアプローチに切り替えたり、サンクコストを認識してプロジェクトの方針自体を切り替えることも時には大事なことである。そして私以外の多くの人も「やり抜く力も切り替える力もどっちも大事だよね」ということは自己啓発書に啓蒙してもらわなくても多くの人が分かっているはずである。それがなぜ分かっているのかというと今までの人生の中で何かをできるようになるために継続してやり抜いたり、今までやっていたやり方から新しい方法に切り替えることで物事が上手く進んでいったというような体験を多くの人がしているからである。

人が何かを学ぶ時、そこには失敗がつきものである。失敗する中で人はたくさんのことを「体験」し、その中で試行錯誤をしながら前に進んでいくものである。そしてその生の「体験」は決して本屋には売っていない。本来知っているはずのそういったことに目もくれず⚪︎⚪︎大学の科学的な研究に裏打ちされている自己啓発書に走る。その理由は失敗したくないからである。「⚪︎⚪︎大学の科学的な研究がエビデンスとしてあり、具体的な内容で記述してあれば自分にも適用でき失敗する可能性も低いはずだ」そう考える人が多いから自己啓発書は売れるのだろう。しかし具体的であれば具体的であるほど内容が固まってしまっており応用することが難しくなる。それは構造的にもそうであるし、考える力を奪うという意味でもそうである。「本にこう書いてあるんだからその通りすればいい」というのはつまり「思考停止」である。私もジェイラボのコミュニティの活動の中で「本を読もう」と学生達に勧めているが、それは考えるためであって考えないようにするためでは断じてない。

結局自己啓発書を有効に活用できる人は応用力のある人なのである。だが残念ながら自己啓発書では応用力は養われないし、自己啓発書の内容を鵜呑みにするということを繰り返していけばむしろ応用力は下がっていく。そして応用力のある人は自己啓発書に書いてあるくらいのことは自身の原体験からアナロジーで引っ張ってきて日頃から実践しているのでそもそも自己啓発書を読む必要がない。

結論としては何かを「やり抜こう」としている時に並行して「切り替える」こともできる人は本書は読まなくていい本ということになるし、それくらいの応用力も身につけていない人も本書は読まなくていい本ということになる。


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