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出戻り介護福祉士の“気づき”

こんにちは。
普段はお笑いオタクをしていますが、お仕事としては介護福祉士をしています。介護福祉士養成校に2年通って、ちゃんと勉強がんばって資格も持ってます。
半年ほど仕事をしていなかったのですが、3月末にまた介護の仕事を始め、2ヶ月ほど経ちます。
その中で得た“気づき”を、シェアハピ。施設で介護に携わるいろんな方に読んで頂きたいですが、ぜひ、介護福祉士として施設で働き始めたばかりの、同年代の方には特に読んでいただきたいです。

私の“気づき”は、めちゃくちゃ簡単で、当たり前だけど、つい、見落としてしまいがちなこと。

それは、利用者とたくさん話すことが優しい介護につながるということです。

当たり前の事だけど、意外とできなかったりする、これです。

私の働く施設には、認知症で、立位や座位では身体が強く傾いてしまうため車椅子、排泄は意識があり、本人の申し出のあったタイミングでトイレで行う、というおばあちゃんがいます。(仮にAさんとします)。

Aさんはおトイレが近く、下手すれば30分に4回もおトイレに行きたいという訴えがあります。
これは夜間でも関係なくて、Aさんの部屋はベッドに端座位になるとセンサーが鳴るようになっているのですが、夜間でも朝方でも、どんなに忙しい時間帯でも「すみません、ごめんね、ちょっとおトイレに…」と言って端座位になっています。
トイレに行ったら、Aさんは自分で掴まって立ち上がり、こちらはズボンとリハパンをおろし、座る動作の介助をするのみです。ですが、動作が緩慢で、まず立ちがありになかなか時間がかかります。
Aさんは認知症と純粋な加齢の影響なのか、ゆっくりと同じような話をします。その話は、大体が『わたしはこんな体だから、トイレもひとりで行けなくて、何もひとりで出来なくて、みんなに迷惑をかけて、本当に嫌になる』というような話。

普通の友人関係とかでもそうだと思うのですが、こういうネガティブ、マイナスな感じのお話ってずっと聞いてるとこっちが疲弊しますよね。
それは介護士と利用者の関係でも、人間同士の会話ですから、やっぱり同じで、みんなちょっとずつ、何回もAさんのトイレ誘導に行く度に話されるその内容に疲れてしまっている、というのが現状です。

Aさんのそんな言動と、時間帯、こちらの忙しさに関係なく繰り返されるトイレの要求に、周りの職員さんはAさんを嫌っていた方が多くいました。

コールが鳴れば、「あぁ、またAだよ」とか、「Aさんはモタモタなんか喋ってるけど、適当に流しちゃっていいから」とか、そういうのを言われたりしていました。

最初こそ、ハハハなんて言いながら、内心そんなんでいいわけないだろ、と思っていたので、きちんと話を聞いていたのですが、徐々に、忙しい時間帯でもトイレに呼ばれることや、行ってもマイナス感情の話をされることに疲弊して、自分でも「あ、冷たい態度とっちゃったかも」と思うことが増えていきました。それでも介護現場はけたたましく回り続けるので、次のやること、次のやること…と考えると、自分を制御出来ずAさんを適当にあしらったりしてしまったり、煩わしいと思う気持ちが出てきてしまい、二律背反に苦しんでいました。

ある時、いつもの様にAさんにトイレに呼ばれ、トイレへ誘導しました。
その時、Aさんが普段使っているトイレが使用中だったので、私はとりあえずAさんをトイレのそばの食事のテーブルに誘導して、「ちょっとトイレ混んでるのでここで待っててもらっていいですか?」なんて声をかけました。
そこで、ちょっと忙しい時間帯が過ぎた頃だったのもあり、私も疲れていたので、隣の椅子に腰かけました。
静かな時間がなんとなく気まづく、私はそばにあった新聞を手に取り、テレビ欄を眺め、そしてまたなんとなく、Aさんに「あ、今日は6時半から野球ですって。Aさんは野球見ないんですか?」と話しかけてみました。

私の働く施設は、私含め結構野球が好きな利用者・職員が多く、土日のデーゲームではホールで利用者数人や手の空いた職員がみんなで大きなテレビで野球を見て盛り上がったりもしています。

そんな感じなので、ほんとになんとなく、時間つぶしのつもりでAさんにその話題を振りました。するとAさんは、いつもの調子でゆっくりと話しました。

「私は野球はあまり好きじゃないけど、やってたら見るのよ」
「へぇ、そうなんですね」
「何時からだって?」
「6時半からです」
「そっか、その時間なら私は部屋にいるもんね、あなたは野球好きなの?」
「そうですね、私は結構時間あれば見るかな〜って感じです」
「そっか、それじゃ今日の夜私の部屋で一緒に見ようよ」

そうやって、ニコニコと笑いました。

Aさんが話す内容はいつも、自分を責めるような話ばかりで、そして、いつも、眉をしかめ、今にも泣き出しそうな悲しい顔をしていました。
そんなAさんがこうやって笑っていることが、私には衝撃で、そして、自分が情けなくなりました。

思えば、就職したてで他の職員と介護に入っても、Aさんが話し始めたら長くなるから、はいはいと部屋を出るように教えられていたため、ゆっくりとこうやって他愛のない話をしたことがなかったのです。
Aさんの笑った顔は、こんなこと本当は正しい言い方では無いけれど…とっても可愛くて、素敵な笑顔でした。

そこからAさんは、スポーツを見ることは昔から好きで今でもテレビで時々見ること、オリンピックは楽しみだから次のオリンピックまで元気でいたいと思うこと、カヌーの羽根田選手が好きだからテレビに出ていないか探してしまうことを話してくれました。
羽根田選手の話をする時には、少し照れくさそうに笑って、声色も、私が大好きなお笑いの話をする時みたいで。

そして、いつものようにトイレで排泄介助をして部屋に戻ろうか、というとき、

「今日の夜は何時までいるの?」
「今日は9時までいます」
「うん、それなら私の部屋で一緒に野球見ましょう、嬉しいわぁ、待ってる」

そう話してくれて、なんだか目の奥が熱くなりました。

学校で、どんなに会話や傾聴といったコミュニケーションが大切と教えられていても、実際の介護現場は目まぐるしく、なかなかそれを実践するのは難しかったりもします(もちろん、全ての施設がそうとは思いませんが)。
だけどやっぱり、こういうなんてことない会話が、利用者にもっともっと優しく接することの出来る大きなきっかけとなる事は間違いないと、このAさんとの出来事で確信しました。

悲しいけれど、介護の現場って利用者さんの悪口や文句が少なくないように感じます。

これを読んでくださっている、私と同世代、2000年以降生まれの介護士さん、そうじゃなくても、介護を始めたての方なんかは、職場によっては年上やベテランの職員さんばかりで、自分の意見をいえなかったり、他の職員さんの話をそうですねとニコニコ聞いて、気持ちを押し殺す様なことも少なくないのかな、なんて思います。
そして、そうしてるうちに、自分の中の信念、介護観も揺らいでしまうことも。
(もちろんそうじゃない方もいることは重々承知です!そういう方のことは心の底から尊敬しています。かっこいいです)

そんな時、一旦深呼吸して、一旦次の仕事のことは置いておいて、後で他の職員さんに怒られるとしてもちょっとのみ飲んで、利用者さんの隣に腰掛けて、目を見て、ゆっくりお話してみてください。
内容はなんでもいいです。ご飯のこと、家族のこと、今やってるテレビのこと、仕事のこと……
そうやってゆっくり話しているうちに、利用者さんの、“利用者”ではない、一人の人間のとしての一面が見えてきて、愛おしくなって、優しくできるような、そんな気がします。

Aさんとの出来事があってから、私はよく利用者さんとなんでもない話をするようにしています。
“利用者との信頼関係の構築”なんて学校で習って、いや認知症の利用者との信頼関係なんて無理だろ明日には忘れてるんだし、なんて正直思っていましたが、そうでもないんですよね。
私たちの名前や顔を忘れてしまっていても、なにかどこかで、少し、ほんの少し、心の中に介護士のことが残ってくれてるのかな、わからないけど、毎日そうやって話していると、少しずつだけど、距離が縮まるような、そんな気がしています。
それは結果、私(介護側)の気持ち、利用者側の気持ちが上手く伝わるようになって、介護がスムーズに出来ることに繋がっていると感じています。

こんなのはあくまで精神論だし、私も介護福祉士とはいえ現場経験は2年ほどのペーペーです。
全ての利用者に通用するわけじゃないし、ベテランの介護士さんから言わせりゃ、若造がなんか言ってら、みたいな内容かもしれません。

介護の現場での虐待がニュースになる度、他人事ではないなと思います。楽しい事も沢山あるけど、おなじぐらいストレスの多い仕事です。いつ自分のリミッターが外れてしまって、報道されているような虐待に走ってしまうか。絶対に自分はこんなことしない!!と強く出れないのが私の本心ではあります。
だから少しでも、利用者さんには自分の持てる優しさを全部持って接していたいのです。

だけど、こういうことが、優しい介護に繋がるんだって、当たり前のことだけど、このnoteを最後まで読んでくれた方に改めて伝わったらとってもうれしいです。

ヘッダーの写真は仕事帰りに職場から撮った空の写真。つきと星がかわいい。これもシェアハピ!


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