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現実/仮想/僕/君

 リアルであろうとバーチャルであろうと、夕暮れ時の学校の廊下は常に非現実的だ。
 大人になってから学生の頃を思い返すと、エッシャーの絵の中で生活していたように感じる。
 窓から差し込む夕陽が周囲を眩しいほど鮮やかな朱に染める一方で、夜の闇のような影が所々で長く伸びる。
 校庭から聞こえる運動部の声は、実際の距離よりどこか遠い。
 文化系の部員が校内に残っているはずなのに、無人のような静けさが校舎を満たす。
 そして、記憶の中で響く音楽に重なり、ピアノの曲がかすかに聞こえる。
 サティ、ジムノペディ。
 夕暮れ時の校舎を思い出すたび、この曲が流れる。
 
 音楽室の扉を開くと、少女が一人、ピアノを弾いている。
 西日が斜に彼女を照らす。彼女の影が長々と教室の床に伸びている。
 影は、彼女が亡くなった時、床に広がった美しい黒髪を思い出させた。
「やあ」
 僕は、僕が殺したはずの少女に声を掛ける。
 彼女は微笑み、わずかに頷いてみせた。

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