【Vol.1】ヒトはなぜ笑うのか?:理性のエネルギーとイジメのエネルギー
ヒトはなぜ笑うのか?
ヒトはいろいろなシーンで笑うことのできる動物だ。しかし、私たちは何かしらには笑い、何かしらには笑わない、という判断をしている。そこにはユーモアが発生するメカニズムが存在する。
ここでは私が大学の心理学科で学んだ【ユーモア心理学】を、自分の理解を含め、超単純化しながら代表的な4つの理論を整理し、実践的な事例から考察を進めたい。
Vol.1では、「精神分析理論」と「優越・非難理論」をご紹介。
※一部解釈が恣意的な部分もあるかもしれませんが、ご参考まで。
※本コラムは「ユーモア心理学ハンドブック」(Martin,2017)を参考にしています。
▼精神分析理論
「神経システムに作られたエネルギーが不要となった際に、笑い(身体活動)によって放出される」
この説は超有名な心理学の父・フロイトが提唱した。
フロイトは、イド(本能)から放出されたリビドー(性的or攻撃的な衝動)は超自我(理性)によって抑え込まれるという理論を前提に笑いが起こるメカニズムを考察した。
簡単にいうと、エロいこと考えたり暴れたい欲望を人間は持っているが、”理性”によって蓋をされている。しかし、ジョークの巧妙な”仕掛け”によって、”理性”の監視をすり抜けて性的or攻撃的な衝動を楽しんでいるのだということ。
その例が下記のジョークである。
ブラウン氏:最低だねここの管理人は、この建物のすべての女性と関係を持っていることが分かったよ。たった一人を除いてね。
妻:まあ、その一人というのは、あのお高くとまった3階のジョンソン夫人に違いありませんわ。
このジョークは文字面だけみればエロティックさのない普通の文章だが、”妻の不倫”という性的なテーマが巧妙に隠されている。そうすると、蓋をしようとした”理性”の心的なエネルギーが行き場を失い、(「あれ?この文章全然エロくないじゃん!」となり)、その結果として、笑いとして開放されるのである。
▼優越・非難理論
「身体的な闘争に勝利した時にあげる勝利の吼え声がユーモアと深く関連している」Gruner(1978)
これは「攻撃性」と「人間の進化」を合わせて考察したユーモアのメカニズムである。
「笑いの情念は、他者や以前の我々自身との比較によって、卓越の観念が我々の内に生じさせる突然の栄光に他ならない…」ホッブス(人間論)
言語が発達していない原始時代。人間は身体的な闘争において血中にアドレナリンが放出され情動的な心的エネルギーが貯められていた(戦いの最中に鼻息が荒くなるような緊張感のイメージ)。そしてその戦いに勝利した時、そのエネルギーを保つ必要がなくなり、余剰としてその心的なエネルギーを放出する。それが笑いの起源だとしたのだ。
戦いに勝利した時の雄叫びは、その余剰となったエネルギーの放出であり、それがユーモアの根源だとしたのだ。
そして人類が進化に合わせ言語が発達することで、身体的な攻撃も言語的な攻撃へと進化していった。だからユーモアには攻撃性が含まれているとした。
ユーモアに含まれる、いじめやイジリ、毒舌などの攻撃性が笑いとなって放出されていると考えられたのだ。
しかし…
「精神分析理論」も「優越・非難理論」も、心的なエネルギーの「水力学モデル」(余剰となった緊張の燃焼)を想定しているが、現代的な神経システムの理解では、神経の電気信号が別のエネルギーに置き換わることはないとされている。
また、攻撃的or性的なユーモアを楽しむことが、対応する衝動の抑圧(”理性”の蓋)と関連しているという仮説を支持する研究が少ないことや、すべてのユーモアが攻撃的や性的ではないことから、精神分析論も優越・非難論も現代ではあまり支持されていない
しかし、ここで登場する「緊張感」や「攻撃性」はユーモアにとって非常にキーワードとなる。それは「興奮転移」として新たな理論が展開してしていく…。
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