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【Vol.3】ヒトはなぜ笑うのか?:「旧中山道」なんて読む?

ヒトはなぜ笑うのか?

これまでは、笑いのエネルギーの根源として「精神分析理論」と「優越・非難理論」そして「覚醒理論」をご紹介した。事前の「緊張感」などの生理的な興奮が、ユーモアを感じた時の興奮に転移し、面白さを増幅する。

つまりより興奮状態にある方が、ネタがより面白く感じるのである。

では、ネタそれ自体の面白さ、とは?
認知の側面からユーモアに迫るのが「不調和理論」である。

▼不調和理論/不調和解決理論

矛盾した組み合わせやあり得ない組み合わせ(不調和)が同時に思考の中に活性化されることでユーモアが発生するとした理論である。

例えば、下の文字は何と読むだろうか?

「旧中山道」

正解は、「キュウナカセンドウ」。問題と答えが調和した状態である。

その一方でジョークとして、「イチニチジュウヤマミチ」と回答することがある。これは不調和(つまり不正解)ではあるが、そこにある種のつながりがある(旧=1日と読むこともできる)ことで、頭の中で異なる二つの読み方(イメージ)が同時に想起され、ユーモアが発生すると考えられている。

これが不調和理論である。

そして不調和が解決されて初めてユーモアが生じるとする不調和解決理論だ。しかし、不調和の解決が必要か否かという議論は多くの実験で検証されてきた。

Hillson & Martin(1994)の実験

Hillson & Martin(1994)は、意味微分法を用いて、不調和(領域間距離)と解決(領域内距離)の度合いを操作したジョークに対して実験参加者にユーモア評価を行ってもらった。

方法は、各ドメイン(俳優、世界の指導者、鳥、食べ物、車、新聞)に対応する名詞を5~4個(俳優ならトム・クルーズ、ウッディ・アレンなど、食べ物ならハンバーガー、キッシュなどなど)を用意する。

「AはAの領域におけるB(A is the B of A's domain.)」というジョークの隠喩文にそれぞれの単語を当てはめて、実験参加者にユーモア評定を行ってもらうのだ。

例えば「シルベスタ・スタローンは俳優界のトランザムだ」という隠喩文を評定する。

この文章の場合は、「俳優」と「車」の領域間距離(不調和)は離れているが、それぞれの具体的な概念の領域内における特徴には共通するもの(解決)があるという構造を持っている。

一方で、「シルベスタ・スタローンは俳優界のプーチン大統領だ」の場合はどうだろう? イメージは近くとも、「俳優」と「世界の指導者」の不調和の距離は「車」ほど遠くはないかも知れない…。

また、「シルベスタ・スタローンは俳優界のプリウスだ」でも、「俳優」と「車」に距離があっても、不調和の解決がなくあまり面白くはないかもしれない…。

実験の結果では、ユーモア評価も不調和があるジョークの方がより高く評価された。さらに、そこに解決が伴ったジョークが一番面白いと評価されていた。

しかし実験の結果から、不調和の解決はユーモア評価を高める要因にはなりえるが、解決それ自体はユーモア評価にかかわる統計結果は得られなかった。

つまり、ユーモアを生み出す本質は「不調和の知覚」それ自体が重要と考えられる。

解決を必要としないユーモア:ナンセンスジョーク

実際に、不調和が解決を必要としないユーモアも存在する。

問:コーヒーカップの中を見ると、浮かんでいるマシュマロに象が載っていました。なぜでしょう?
答え:泳げないから。

これはエレファントジョークといわれるジョークの一種。常識的な説明がなく、不調和をそのまま放置している。そのほかにも”シュールな笑い”などは、明確な解決がない不調和が提示される。

では、不調和が”解決する”ことの役割は?

では不調和の解決とは何か?

Martin(2007)の著書によれば、Apter(1982)は、矛盾したありえない組み合わせのイメージ(不調和)である非日常的な矛盾した組み合わせを同時に頭の中で活性化させることは非常に困難であると考える。

ユーモアが発生するような不調和がスムーズに思考に活性化されるために、不調和間に解決(つながり)が必要となる場合が多い。

「旧中山道」のジョークの回答が「バナナ」だった場合、「え?どういうこと?」となり、聞き手に対して困惑をもたらしユーモアの発生を妨害するだろう。

つまり解決とは、不調和の解消ではなく、むしろ不調和となるイメージを同時に、スムーズに頭の中に思考させるためのきっかけとなると考えられる。

次号では、解決と深くかかわりがある「ツッコミ」について、不調和の認知においてどのような作用が起きているかを解説していきたい。

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