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【Vol.2】ヒトはなぜ笑うのか?:「緊張と緩和」の正体についての考察

ヒトはなぜ笑うのか?

Vol.1では、「精神分析理論」と「優越・非難理論」をご紹介したが、そこで出てきた「緊張感」や「攻撃性」を、生理的な覚醒という側面から考察した覚醒理論をご紹介する。

覚醒理論

ユーモアを生理的な覚醒(心拍数があがったり、汗を書いたりする反応など)と結び付けて考えた理論。

Shurcliff (1968)の研究が、古典なやり方ではあるが、非常にわかりやすく面白いので例にする。

研究室に入った実験参加者は、2つのグループに分かれて、それぞれ説明を受ける。

A群(不安度・低):「目の前のケージからネズミをとり、手に載せてください。ネズミはおとなしいです」
B群(不安度・高):「目の前のケージからネズミをとり、注射器で採血してください。噛み付くので気をつけてください」

いざ、ケージからネズミを取り出すとオモチャのネズミというオチの実験である。

その後、どれくらいユーモアを感じたか調査した。その結果は、より不安を感じていたB群の方がユーモア評定が高まった。

これは、"興奮転移"と呼ばれる。

快、不快に関わらず感情的な覚醒が高められることで、その覚醒がユーモアに伴って生まれる愉悦の感情に転移して、ユーモアをより楽しく感じさせるということ。

つまり、よりドキドキした状態の方が、強くユーモアを感じるのだ。

パンパンに膨らんだ風船(緊張感)の方がは少しの刺激でもよりセンシティブに反応するイメージだ。

「箸が転んでもおかしい」は笑いの無双状態

これが俗にいう「緊張と緩和」の正体である。

いままでにあった緊張感が、緊張する必要がなくなることによって、緩和(実際には消えるのではなく、転移)することで、ユーモアの感情が強調されるのである。

「箸が転んでもおかしい」という状態は、極度の興奮状態下にあるからこそ、少しのネタでも興奮状態がユーモアを増幅させるためだと思われる。飲み会でくだらない事でも大笑いできるのも、ベースの興奮状態が高いからだ。

またお笑いライブなどでも、テレビで見るよりも生で見た方が面白く感じる事のも、ベースの興奮状態が高い(生の臨場感など)ことが作用していると考えられるだろう。

しかしここで注意したいのは、「緊張の緩和」はユーモアを感じる上で起こる結果でしかなく、それ自体が面白さではない(緊張が緩和するだけで面白いのであれば、安堵もユーモアになってしまう)。緊張感は、何か面白い事があった時に、その面白さを”強調”する役割があるのだ。

では、その面白さとは一体何なのか…。

そのメカニズムに迫るのが「不調和(解決)理論」。
次号より笑いの認知的なメカニズムの本丸に迫る。


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