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絶望社会人とイントゥザワイルド

イントゥザワイルドは2007年のアメリカ映画。
主人公クリスは裕福な家庭で何不自由なく育てられハーバードロースクールへの進学を決めた。
だが大学卒業祝いに新車をプレゼントしたいという両親の申し出を断り、彼は突如身分証、クレジットカードをハサミで切り捨て預金残高全額を慈善団体に寄付して旅に出てしまう。

資本主義物質主義の全てを疎ましく感じ、全米を放浪した彼は米国最北の地アラスカを最終目的地にする。
偶然見つけたバスの中で寝泊まりし読書をしたりして時を過ごすが、徐々に食糧が付き、狩猟で仕留めたヘラジカを食べる気力も失いクリスは力尽きた。

青年が放浪の末アラスカで死体となって発見されたノンフィクション作品『荒野へ』が原作。(まさかの実話)

社会に絶望した人間が自然を目指すのは不思議では無い。昨今キャンプや登山が流行ったり、都会から田舎へ移住する人が後を絶たないのは現代人が有り余る程のストレスを抱えた結果に違いない。

インフラが整備されていない自然の中では生活の全てをゼロから自分で行わなければならない。宿を設営し、火をおこして料理をし、寝床を作らなければならない。非常に面倒だがこれが精神衛生に良いのだと思う。何故ならやる事が多すぎて考え事をする時間が無く、作業が終わる頃には疲れ果てて寝てしまうからだ。

文明社会の生活はとても快適だ。電気ガス水道Wi-Fiのお陰で全てが一瞬で完了する。しかし生活に必要な時間が極限まで短縮されたせいで余った時間を持て余した結果、精神を病んでいる人が多いと感じる。

例えば週末にイベントが何もなく憂鬱になる人は百年前には存在しなかったと思う。そもそも土日休みなんて無かったし、生活にかかる時間が膨大だから仕事と生活をしてそれが終わったら日も暮れて辺りは真っ暗、草臥れてもう起きていられない。悩んでいる暇がないのだ。

テクノロジーのお陰で捻出された時間を創造的な活動に全て投入出来るのだから、やりたい事があって時間が足りない人にはこんなに良い時代はないのだけれど、恩恵を受けるのは一部の人間だけだろう。ほとんどの人は自分のやりたいことすら分からないまま、貴重な時間を浪費して死んでいくのだから。

人は考えない為にイントゥザワイルドする。クリスは死の間際『幸福は誰かと共有された時だけ現実になる(Happiness only be real when shared)』と呟いたけれど孤独を解決出来れば原始生活で失った自分を取り戻せるかもしれない。

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