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打ち上げ花火

昨年の街の夏祭り、働く店が店の名前を協賛として初めて花火をあげた。
よく、花火の前に企業や団体さんの名前をアナウンスするあの花火。

ふと、思い出した。
親友が住む街の花火大会で、何年も前から飲み仲間で花火をあげようと言っていたことを。

打ち上げ花火、追悼のきらめき。

追悼の花火は親友の妹さんへ。九月二十日が命日の。

親友の妹さんに出会ったのはわたしは中学三年生。
ヤクルトスワローズの応援で、神宮球場の外野席応援団の真後ろの席。
いつも同じ席に座っていたらよく会うようになり、一緒に外野自由席に並ぶようになった。
妹さんは、いつも薄い白いふわふわしたブラウスにフレアーのロングスカート。ビールを豪快に飲み、かっこよく煙草を吸っていた。

まだ中学生で、世界が狭かったわたしには、初めて出会った大人の女性だった。
よく夕方から球場にいるんで何している人と思っていたが、だんだんとわかっていった。
前の年に離婚して、慰謝料で暮らしていてたのだ。
慰謝料なくなるまで野球見るらしい。それもまた、すごいなと思った。

きっぷよくて、
さっぱりしていて、男勝りだけど、
何か色気があった。

そしていい女には、男がいるんだなと思った。

当時の妹さんの恋人もたまに野球場に顔をだしていた。
恋人来ると妹さんの顔が、華やぐ。
ほんとうに幸せそうになる。
そういうところも好きだった。

ちゃんと一緒に飲めるようになったのは、二十歳になってから。
二人で恋の話ばかりしていた。
いろんな話を聞かせてくれた。そして、わたしのままごとみたいな恋に対してのアドバイスもたくさんくれた。

わたしが、大学四年生の時に訃報を聞いた。
入院していたのは知っていたが。

突然のカットアウト。余命三ヶ月の末期癌。
中国の山水画の渓谷のような橋から。
恋人と一緒に、

舞い降りた。

すごい沈痛なお葬式かと思ったが、
親友のファミリーは気丈で明るく飲んでいた。

妹さんと恋人の棺が二つ並んだお葬式。

親友とわたしも飲んだくれ、親友が、
「一緒に死んでくれる男なんて、わたしたちには、いないね」と言い放ったのを、はっきりと覚えている。

あれから、十年。
妹さん、今、飲んで話したいことが、
たくさんありますよ。
わたしも、恋してきましたよ。

たくさんお世話になったのに、何もかえしてないですね。

みんなで見た野球が一番楽しかった。
懐かしいです。

九月になると思い出しますよ。
思い出すことも、
追悼になるでしょうか。

やはり恋愛って、大切ですよね。
わたしも妹さんみたいな飲み方や愛し方したいですよ。
憧れです。永遠の。

初めてお会いした時の妹さんの年に、
わたし、ついに追い越しちゃいましたよ。

もっと真摯に生きなきゃならないと、切に思いました。

「なぜ私たちは年齢を重ねるのか。生活に逃げこんでドアを閉めるためじゃない、また出会うためだ。出会うことを選ぶためだ。選んだ場所に自分の足で歩いていくためだ」
「対岸の彼女」角田光代 文藝春秋

#創作大賞2023
#エッセイ部門


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