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2a-1. 予備作業ファイルを作成する オリエンテーション3/3

前回:1.読解の方針と準備作業の概要

作業 [B1] の概要

 準備作業 B1 はファイルに対して行い、あとで参加者と共有します。主要な作業は以下の二つ:

  • [B1a] 量的構成を確認する。

  • [B1b] 趣旨・課題を抽出する(〜第二水準の要約を作成する)。

[B1a] 量的構成を確認する

 目次を書き写し、掲載されているページ数から機械的に章の分量を導き、比を見ます(余力があれば節レベルでも行いますが、節レベルでは段落数や行数を使うことが多いので、やや面倒です。最初にすべて完了させる必要はありません)。例として、第一期読書会で 梶谷真司『考えるとはどういうことか 0歳から100歳までの哲学入門』(幻冬舎新書、2018年)を取り上げた際に作ったグラフをお見せしましょう。

 グラフを描くと、たいていは自明に言えること(・疑問・予想)が出てきます。たとえば、第一期初回に私が提出したメモは以下のようでした:

・主要4章の間には際立った差はない。
・目立つのは第2章の少なさと第4章の多さ(2倍関係)。
 ・4章が多いのは例示を含むからだろう。
 ・2章が少ないのは???
・節のレベルに降りるとかなり趣きがかわり、量のバラツキが目立つ。
 ・1-2 の量が多いのは、ルールの解説が厚いからだろう。
 ・3-1 が多いのはなぜだろうか?
  ・ここは本書の中でも特に重要な節なのかもしれない。節タイトルも勘案し、これが 「哲学の意義」と「哲学対話の意義」をブリッジする位置に置かれた節なのではないかと想像した。

 何が言えるかは本によりますし、ほぼ何も思いつかない場合もあるので、この作業には ほとんど意味のないこともあります。が、少なくとも「バラつきが大きい・小さい」くらいのことは言えます。バラつきがあるから悪いといったことはなく、多いから重要で少ないから重要ではない などということもありませんが、しかし多いこと/少ないことには それぞれ理由があるはずです。そしてその理由は、目次を見て想像がつくときもあれば、読み終わるまでわからないときもあります。

[B1b] 趣旨・課題を抽出する

 多くの本は、「序論の末尾においては書籍の章構成を宣言せよ」とか、「各章の冒頭ではその章の課題を宣言せよ」いった慣習的規範に従って書かれています。したがって、序論末尾や各章の冒頭付近における宣言をコレクションすると、A4一枚くらいにおさまる量の要約を入手することができます(これを「第二水準の要約」と呼ぶことにしましょう)。このくらいの分量であれば一瞥で把握できるので、読み始めたばかりのステージにおけるガイドに適しています。これはそもそも、文書作成者たち自身が読者をガイド(ナビゲート)するために記したものなのですから、読者のほうでもまずはそれを手掛かりにして本を読み始めることができるのは当然です(というだけでなく、読者はそうしなければなりません)。これはもっともシンプルな意味で「文書を、文書の指示に従って読む」という読み方のトリヴィアルな例になっていますが、こうした導入・誘導をどのくらい行ってくれるかは書籍によってまちまちです。残念ながら、そして驚くべきことに、これをほとんど行ってくれない書籍もあります。そしてまた残念ながら、行おうとはしているものの、それに失敗している書籍も少なくはありません。そうした場合には、改めて「ここで何が行われているのか」という問いを立てながら、他の手立てを探しつつ進むしかありません。

 その書籍の課題や問いのリスト(第二水準の要約)が手に入ったら、さらに続けて、各課題・問いに対する答えの特定に進むこともできます。すると、〈問い/答え〉のペアからなるリストを入手でき、これで第二水準よりも詳しい要約を手にしたことになります(「第三水準の要約」と呼ぶことにしましょう)。これは第二水準の要約に比べると手間もかかりますし、一瞥で把握できる量を超えるのでハンディさには欠けます。こちらの方は、事前には、すぐにわかるところを埋めるだけで済ませ、あとは「書籍を読みながら完成させる」くらいのつもりで取り組むなら、よいガイドの役割を果たしてくれるでしょう(名前からして容易に予想がつくように、このほかに「第一水準の要約」と呼んでいるものもありますが、これについては省略します)。

 第二期に取り上げた 戸田山和久『思考の教室』(NHK出版, 2020年)を使って例を示します。本書の場合、序章では、最初のほうに「これが本書のねらいだっ」という節を置いて書籍のねらいを明示したうえで、章の最後に「本書の構成と利用のしかた」という節を置いて構成を明示しています。キャプチャしたうちの、特に第01段落が、書籍構成を予告・宣言している部分です。

戸田山和久『思考の教室』序章の最終節[ページをめくると後ろにさらに三行続いている]

 本論に進み、各章の先頭部分で行われている宣言を取り出すと以下のようになります(キャプチャしたのは12章のうち前半6章分):

 ピンクでハイライトした部分が狭い意味でその章に関わる宣言。下線部は文書の構成(=章や課題の間の関係)に関わる表現。緑色のハイライトは接続詞などです。この表では、「狭い意味でその章に関わる宣言」以外のところも拾っていますが、それは、著者が、「その章に関する宣言」を述べる際に、あわせて他の章との関係も述べていることに気づいたためです。この著者は、章をまたぐごとに、繰り返し、書籍全体のストーリーを語りなおしている、というわけです。想像するに、著者がこのような親切さを発揮しているのは、まずは著者が親切な人だからでしょう。しかしおそらく著者は、経験によって、「これだけ明確に、しかも繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し述べてもまだなお、書籍の構成・主要ストーリー・主要課題を踏まえずに この本を読む奴がいるはずだ」というのを経験によって知っているのだろうと思います。実際……、存在しているでしょう(そしてまさにその事実こそが、私がここで、このようなトリヴィアルなことばかりを延々と書き続けていることにもまた、意義を与えてくれるわけなのでした)。

 さらに。二部構成からなる戸田山本の場合、各部の冒頭にも書籍概要の記載があり、この箇所を見るだけで図が描けるくらいにまで明確に構成がわかってしまいます。ここまで親切な本となると数は減ってしまいますが、しかしむしろどの著者もこのくらいはやってほしいところです。

戸田山和久『思考の教室』の各部扉文などをもとに作図したもの。
左側の茶色い箱群が「問い・課題」に、右側のグレーの箱群は「答え」に相当している。

次回:2a-2. 読解方針:主導的な問いを文書について問う


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