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場の管理(トレーニングと安全性)について オリエンテーション2/3

 前のエントリでは、本会の副次目標が読む技能の訓練にあり、そのために上位目標(何が言われているかを知る)を使うよ、というお話をしました。
 このエントリでは、オリエンテーションの二つ目の話題として、本会が訓練の場であることに関わってお願いしたいことや注意点を記します。

無理をしないでください/少し無理をしてください

 「訓練をする」というからには、我々には何らかの能力が欠けていたり足りなかったりするわけです。そこでこの条件から、まずは次のアラートが生じます:

  • 無理をしないでください。

  • 少し無理をしてください。

 これから皆さんには、具体的な作業を複数実行していただきます。作業の内容は──自転車に乗れる人にとって自転車の運転が難しくないのと同様の意味で──まったく難しくないものですが、少なくとも慣れるまでは それなりに面倒で窮屈に感じるはずです。それだけでなく、自転車に乗る訓練、水泳の訓練、受け身の訓練などに致命的な事故の可能性がつきまとうのと同様に、また筋力トレーニングで体を壊すことがありうるのと同様に、この作業にもやはり(自転車の事故ほど わかり易くはないタイプの)危険はともないます。作業は、自分自身と相談しながら、無理のない範囲で行ってください。──という前提のうえで、多少の無理はしてください。訓練のためには、「ここまでならできる」という限界の もう一歩先まで進む(負荷をかける)ことが肝要です。

失敗できる場所を維持管理する

 訓練が成立するためのまた別の条件は、修正・やり直しが可能であることです。そして、修正・やり直しができるためには、その手前で失敗が生じているのでなければなりません。我々は訓練のために集まるのですから、参加者の皆さんには、一方では、そこで実際に何事かに失敗していただく必要があり、他方でまた、失敗ができる場の維持管理に協力していただく必要があります。
 失敗ができる場の維持管理には、「他人の失敗を嗤わない」といったことだけでは足りません。失敗を目標に貢献させる構えが必要です。失敗もまた、それなりの理由があって生じるものです。そして、「文書を読む」という課題のもとでの個々の失敗は、その文書との関連で生じたはずです。そうであるからには、失敗が生じる理由について検討することも、「その文書に何が書いてあるかを明確にする」という目標──これが私たちの主要目標でした──に貢献するはずであり、そうさせなければなりません。言い換えると、「正しい理解・正しい解釈」を問題にするだけでは足りないのです(それを具体的にどのように実行したらよいかについては、別途述べます)。

さらにもう一歩、安全性を確保するために

 主催者である私と吉川さんは、この場の管理に責任を負っており、参加者の安全性確保を気にかけています。が、参加者の側で簡単におこなっていただける・効果の高い協力方式もあります。たとえば「無理なこと・やりたくないことは断る」というのが その一つです。主催者からの呼びかけであれ、他の参加者からの呼びかけであれ、拒絶や留保の意思表明を明確にしてもらうことで、場の安全性は飛躍的に確保しやすくなります。その際に、以下のような定型的表現をいつでも使えるようにしておくと、拒絶や留保の心理的ハードルを下げることができます:

  • やりたくないことはしない・断る: 「できません」「やりたくありません」

  • すぐに対応できそうになければ無理をしない: 「いまはできません」「時間をください」

その他

 その他、人の集まる場所で一般に禁止されていること、たとえば誹謗中傷などは、この会でも もちろんしないでください。そのうえでしかし、前項で規範について述べたこと──規範・ルールは能力に関する前提を含んでいる──を再度想起しておきましょう。たとえば、「誹謗」とは他人を悪く言うことであり、「中傷」は他人について根拠のないことを述べて名誉を傷つけることです。したがってここには、〈根拠を挙げて何かをいう〉といった能力に関する前提があります。そのことは、また同時に、こうしたルールの周囲では、

  • 「根拠を挙げて何かをいう」能力を持たないために、他人からは中傷にしか見えない仕方でしか語れない

とか、

  • 〈発言内容についての論評/発言者に対する論評〉といった区別ができないために、発言の論評を悪口として聴いてしまわざるをえない

とかいったことが生じうる、ということも意味します(そして、他の人からは中傷にしか見えない仕方でしか他人について語れない人は、その発言を、中傷として行っているつもりはないでしょう。このような事情のもとで争いが生じた場合、ことは簡単に、調停の難しい抜き差しならない状態へと移行しがちです)。さらにこうした場面に居合わせた側においては、他人の能力欠如に対処する能力を欠いているために、他人に対して道徳的非難を行う以外の応対ができない、といったこともしばしば生じます。──ところで、ここに登場した これらの能力もやはりまたすべて、私たちがトレーニングのターゲットとしているものなのでした。
 ここから、「訓練の場なのだから誹謗中傷は大目に見ろ」といった帰結を導こうとはもちろん思いません。しかし私たちは技能に関する訓練をしようとしているのですから、規範的な事柄についても、そこで前提となっている技能的側面にも反省の視線を向けるのでなければ筋が通りません(そして、この発想がトラブルの緩和に役立つこともあります)。そのうえでしかし、参加者の誰かを害する可能性を持つ看過できないトラブルが生じている(生じうる)と判断した場合には、主催者として場に介入する可能性があります。その場合には、主催者の指示に従ってください。

次回>開催日までにやること オリエンテーション3/3


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