バイクに乗って,何者にもなれないまま,走る。

 久々にバイクを長時間走らせた。何のことはない。緊急事態宣言が解除されたので,隣の隣の町にあるバイク屋さんに,先延ばしにしていた定期点検に出すためだ。

 普段,バイクは住んでいる町の中でしか乗らない。時間がないし,行く場所もない。ただ,バイクに乗りたいから乗る。だから同じ場所をぐるぐるしてしまう。それはそれで,バイクにはかわいそうなんだけど。

 バイク映画と言えば,「モーターサイクル・ダイヤリーズ」だ。

 南米の革命家チェ・ゲバラが,学生時代にオンボロバイクを使って南米を旅する物語。医者になりたい重度の喘息持ちの青年が,どう見ても動くのが不思議(実際,映画中壊れる)なバイクにのって南米を駆け巡る。そこで出会う人々の貧しさ,苦しさ,つつましさに触れて,理想に燃える革命家となる。特に最後のハンセン病患者とのふれあいは,感動する。「当時触ることで感染すると思われていたハンセン病患者と素手でふれあう」「喘息もちなのに,夜の水の中を泳いで渡り,ハンセン病患者たちにお礼を言う」という「理想」を絵にかいたような姿。この行動は,何も考えてないで感情のおもむくままやっているのかと思えば,ゲバラ日記を読む限り,この主人公はそんな感情に走るような人間ではなく,いろいろなことを考え,いろいろな人に目配りをして,考えに考えて行動したものなんだと思う。

 大学生が大陸を旅する映画と言えば,「オン・ザ・ロード」があるけれど,こちらは「ビートジェネレーション」と呼ばれる「ニューヨークのアンダーグラウンド社会で生きる非遵法者の若者たち」が自動車でアメリカを駆け巡る話だ。こちらの若者も,ある意味革命家だけれども,やってることは,「ウィリアムテルごっこをしてたら妻を殺しちゃった」「お金のために男同士で寝た」「麻薬に溺れた」「メキシコに行ったら,感染症で高熱を出して生死をさまよってしまい,その間に友達に見捨てられた」「いい大人になってから友達を見捨てた」という凄まじい自分勝手。

 どっちがいいかは,人それぞれなんだろうし,どっちが良いとか,決めたらいけないんだろう。人の人生の正解は,その人の数だけ存在するはずなんだし。

 私は残念だけれども,「モーターサイクル・ダイヤリーズ」主人公のような崇高な精神も理想もありはしないし,「オン・ザ・ロード」の主人公のような,突き抜けた自己中も持ってはいない。

 結局,何者にもなれないまま,歳だけ取ってしまったけれど,とりあえず今生きているからそれでいいんだと思う。一年前に先輩から言われた言葉を思い出す。

「あなたは生きているだけで,偉いのよ」


 


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