いい感じ

僕は布団の上であぐらをかいている。僕の身体が溶け始めた。

頭のてっぺんから少しずつボンドみたいな液体になっていく。頭頂部の皮膚が溶け、髪の毛も溶ける。僕の頭皮と髪の毛は液体になってあぐらを組んだ太ももの間にこぼれ落ちる。黒い絵の具8に対して白も2くらい混ぜたような黒が、ぼたんと落ちてくる。一滴落ちると数秒空けて次の一滴が落ちる。薄汚れた白いジャージのズボンに、黒い斑点のシミをつくる。

ご機嫌で聞いていたEast End + Yuriの曲を止めて、僕はいったんメガネのレンズを拭く。頭から落ち続けている液体が何なのか、頭に感じる空気の流れは何なのか、確認するために視界をきれいにした。僕は何日もメガネを拭いていなくて、とにかくメガネが汚れていた。メガネの鼻パッドの留め具は酸化して緑色になっている。この汚れは拭いても拭いても取れない。全然きれいにならない。正面からよく見たらすごく緑だからイヤになる。

頭を触ると手に黒い液体がべっとりとついた。海苔の佃煮みたいだなと思った。タオルで拭き取れば簡単に取れる。粘度はそこまで高くない。

頭は平らになっていた。形状が変化している。僕の頭は地面と平行になっている。

僕はあぐらをずっとかいていたので足がしびれてしまっていた。すぐに足がしびれるから本当にイヤになる。背中も少し痛い。あぐらをかいて前かがみになってパソコンをいじっていたせいだ。身体によくないとわかっていてもどうにもこの姿勢になってしまう。

僕はさっき止めたEast End + Yuri の曲をもう一度かけた。ゆるい声、ラップ、ビートが心地いい。僕は今、気持ちがいいのでもうこれでいいなと思う。

僕の頭は溶けている。僕の周りには黒ずんだ液体が溜まっている。僕はもう何も見えない。聞こえない。黒ずんだ液体の上に、今度はくすんだ白い液体が垂れてきた。

僕はEast End + Yuriのご機嫌な曲を流しながら、いい感じの朝だなと壁に向かって話しかけ、シャワーを浴びに行くため立ち上がった。足はしびれているけれど、あまり気にならなかった。