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窃視症患者T、こいつの覗き穴は犬を見続けるためのものだ

ラブラドールが前から歩いてきた。かわいい。飛びつきたくなるかわいいお顔に、ふわっふわのお毛並み。結構なお毛並みでございます。

おばあちゃんはラブラドール様を連れて、僕の横を歩き抜けて行きました。向こうへと、歩き抜けて行ったのでございます。おうつくしいにおいが近隣に漂って参りまして、それはラブラドール様のにおいであそばされるのでございます。うつくしや、うつくしや。あーラブラドール様が僕の横をお歩きになりまして、そのままお歩き抜かれたのでございます。

僕はラブラドール様の神々しいお姿を、電柱の陰から覗き見続けておりました。窃視症!!!!ああ、お犬様を見たくて見たくて仕方がない。おばあちゃんの後ろを抜き足差し足でついて行って、僕は家の中でまったりと過ごされるであろうラブラドール様のお姿を、何とかこの目に、この目に収めたいのであります。収めたいのであります!まなざしのポリティックス!僕の目はカメラだ!

お犬様を見たいという欲望は、人の家に覗き穴を作ることさえ可能にするのです。お犬様とは、人間を大罪人へといたすのであります。そう、すべてはお犬様のせい。お犬様が僕をたぶらかしたのです。

僕はおばあちゃんの後ろ姿をただ見送り、しかるにラブラドール様のおしりをただ見送り、ただただ電柱の影で、お犬様とまた出会えることを信じて、お空を見上げるのでございました。仏様でも神様でも、どなたでも構いませんので、わたくしめに、またラブラドール様とお会いできる機会をお与えくださいませ。

ラブラドール様のお姿が見えなくなり、僕は駅へと向かうのでありました。