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〇〇院さん【超短編小説】

 ワタシの女子高のクラスは〇〇院さんが半分を占めている。苗字の話だ。伊集院さん、薬師院さん、禅院さん、入来院さん、釈迦院さんなど。伊集院さんが二人いるとかはない。みんな違う〇〇院さんで、なぜか彼女たちは仲が良い。授業でペアを作ったりする場合、大抵〇〇院さん同士で組む。人数は偶数なので、誰かが欠席しない限り余ったりすることはない。

 ある日、薬師院さんが体調不良で休みだった。英語の発音の授業で釈迦院さんとペアを組むことになった。席が近かったからだ。いつも組む薬師院さんがいないせいか、いかにも不服そうに釈迦院さんはいい加減な発音で英文を読み上げた。お互いに順番をこなし、周りを見回すと他のペアはまだ続けているようで、少し時間が余った。

「キミたちって仲が良いよね」
ワタシは今まで話したこともない釈迦院さんに話しかけた。
「キミたちって何」
釈迦院さんはむすっとしながら反問した。
「苗字に院がつく人たちのことだよ」
「ああ、そうかもね」
「何か共感するところがあるの?」
「別に」
釈迦院さんは相変わらず無愛想に答えた。

「かっこいい苗字だねって初めて会う人にいつも言われた」
「そうだよね」
会話が続いていくことに少し驚きながら相槌を打った。
「自分の強いアイデンティティーでもある」
「うん」
「でも、結婚したら変わるかも」

「確かに、今はそうなる可能性の方が高いかも」
ワタシは少し間を置いて答えた。

「平凡な苗字の人たちにはわからないだろうな。この感覚」
「うん」


「そう思うでしょ、武者小路さん」
「うん」





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