指差す者を探す

「これはどこにあるの?」「これってあります?」「探したけど見つからないんです」
私は、「ああ、それなら」から始まり、腕を上げて指差す。「あちらにありますね」
 私が言うと、困った顔や申し訳無さそうな顔、不機嫌な顔も一様に満足げになり私が指さした方へと進んでいく。なんて楽な仕事だろう。行くべき場所を伝えただけでみんな上機嫌になる。ただ指差すだけで誰かの役に立つ。自己肯定のハードルが低ければ低いほどこんな簡単なことで満たされる。しかしそれもつかの間、「どうしてこうじゃないのかしら」「なんであれはないの」次から次へと飛び出す文句の数々に私は戸惑う。迷える子羊はどこに消えたのか、いま目の前にいるのは暇を持て余した口達者な無知のタンパク質……激萎えである。
 私は依然として指を指している。立ち去れ、ここは貴様のようなものがいる場所ではない。だけど等身大の炭素化合物は私のジェスチャには目もくれない。まくしたてるように喋り私の体力と思考力を奪うことに特化した存在。はやく、はやく何処かへ行ってくれ。とうとう我慢できなくなった私はその場を離れる。
 よく見ると辺りは彷徨っているものだらけだった。不安な表情、目は虚ろで足取りは胡乱。誰も彼もが迷っている。
 指差す者を探さなくては。使命のように浮かび上がる。同時にそれは私のことで、先程まで私に群がっていたタンパク質たちは未来の私の姿だったのではと気づく。私は旅人ではない。世の果てでは空と海が交じる。当たり前のことだ。
 立っている者を見つける。彷徨っているでもなく周辺に気を配り、与えられた仕事をしている者。一瞬、日がさしたような安心感があった。確信的な安心を得るために私は声を掛ける。
「私の仕事ってあります?」
「ああ、それなら……」

寿命が伸びます