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Vol.6 フェアリーリング

雨雲と競うようにキャンプ場へ着いた。日はすっかり落ち切っていて、とうとう雨が降り出した。

強まる雨の中、タープとテントを張ってようやく食事の支度を始める。湿った空気と濡れた薪になかなか火が着かずバーナーで無理やり着火させた。ソーセージとスープ、パンと赤ワインの簡単な食事を済ませ、次の日の仕事に備えて早めに眠ることにした。

テントを叩く強い雨はまるでドラムロール。キャンプの夜は生き物の息遣いや木立のざわめきで決して静かではないのだけれど、こんな賑やかな夜は知らない。眠れない眠れない……

夜中を過ぎたあたりで雨は小降りになり、いつの間にか眠っていた。

テントを出る人の気配で目が覚める。私も長靴を履いて外にでた。

雨は止んでいたが代わりに外は濃霧。昨日辿った道を頼りに水場まで行こうとすると、地面の上に点々と丸いものが見える。円周上にきのこが生えて輪になっている。フェアリーリングだ。夜の間に妖精の女王が現れ、ドレスの裾が触れていた気配を感じる。スカートの周りをテングタケたちは輪になって踊っていたのだろう。

日が昇ると霧が晴れ視界が広がった。

「きのこきのこきのこ!」

そのとき初めてきのこだらけの森の中にいたことに気がついた。踏まないようにそっと歩く。避けながら歩く。きっとダンスのステップを踏んでいるように見えただろう。

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nonohananote
テキスタイルプリント「おもいでの森」のためのドローイング


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