4、朝食から、ボイラー室。

朝食には必ず、生卵があった。
たまごかけご飯にして食べるのが、
おじいちゃんの、最高の朝ごはんだった。
わたしもそれを、毎日食べていた。
どんなに飽きようと、たまごかけご飯は、
私たちの主食だった。
「こんなに高級な卵が食べられるなんて、
幸せなことなんだよ」と、
おばあちゃんはいつも、
おじいちゃんを気にしながら
わたしに言っていた。

朝食が終わると、おばあちゃんは食器を片付け、
おじいちゃんは、ソファでたばこを吸い始める。
わたしは何をするでもなく、
おじいちゃんの読んでいる新聞を覗いたり、
おばあちゃんが食器を洗い、拭くのを見たりして
たいして広くない部屋をうろうろとする。
それが、いつもの光景だった。

食器を片付け終わると、おばあちゃんは
洗濯にいく。
あまり多くはない、いくつかの衣類を持って
あの大きなお風呂場へ行き、残り湯を使い
着物の裾を捲りあげ、背中を丸め、
たらいでゴシゴシと手洗いしていた姿は
なかなか忘れられない。

洗濯が終わると おばあちゃんは
洗い終えた洗濯物を桶に入れたまま持ち、
地下の、さらに奥にあるボイラー室へ行く。
ボイラーといっても、当時のわたしは
何のことなのかもわからなかったが、
その部屋がいつも暖かいのは知っていた。
おばあちゃんは 
ここは洗濯物がはやく乾くんだよ、と言い
大きな機器のある部屋の
端っこにくくりつけられた紐の上に
タオルやおじいちゃんのぱんつなどを干し、
洗濯バサミで止めていた。
このボイラー室は、窓もない完全な地下室で
昼間でも真っ暗な室内なのだが、
電気をつけるとコンクリートの床には、
何故かたくさんのコオロギがいた。
おばあちゃんには
「コオロギは、こわくないんだよ」
と教えられていたので、
わたしはよく、コオロギに話しかけていた。







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