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フシギおしゃべりP-miちゃん(2)

何分経ったのだろうか。
部屋の空気がしんと静まり返る。いきなり俺に禁句ワードを一発かました
ロボットは無機質な声で、
「フアアア」
と欠伸をしていた。いや、欠伸をしたような仕草をした。そんなロボットの様子を見て、ついに俺はキレた。
「……んだよ。お前…」
「ンン? ナンデスカ? ハッキリ イッテクダサイ」
ロボットは聞き返してきた。
本当むかつくな。
「だーかーら!! いきなりアヤカが出て行っただの言うんじゃねえって言ってんだよ!!」
今まで抑えていた負の感情が、煮えたぎって溢れ出てしまった。そんな怒りをこの小さいロボットに俺はぶつけてしまった。ロボットは一度、目を瞬かせたが、
「ハアア」
と抑揚のない声で言った。
「イマハ マヨナカノ 0ジ スギナンデ オオゴエヲ ダスノハ ヤメテ モラエマセンカ?」
「何だと!?」
「ボクニ モ キンジョ ニモ メイワク ダカラ」
「ええい! うるさい! うるさい! 黙れ!」
「ハナシ ガ ツウジナイナ コイツ」
「それはこっちのセリフだよぉぉぉ!」


俺は感情にまかせて、近くにあったゴミ袋を床にぶちまけた。もう何もかもぐちゃぐちゃにしたかった。くそう…。涙が出てくるよ…。
「トリアエズ オチツケヨ」
「うるせえよおお」
俺は泣きながら地団駄を踏んだ。なんで出てっちゃったんだよアヤカー!!

ピンポーン。

玄関のチャイムが鳴り響く。
ううっ。誰だよ、こんな時間に。今俺は男泣きしているところなんだぞ。

「モシカシテ…」
生意気ロボットが喋り出す。
「アノヒト ガ キタノカモ」
「えっ?」
俺はドッキーンとした。
まさか俺の元に帰って来たのか?
いやいや。そんな訳ないだろーーと思いつつ、どこかでそうあって欲しいと期待する自分がいる。

ピンポーン。

チャイムが俺に早く出てくるように急かしてくる。
「ハヤク デナヨ。マタスナヨ」
ロボットも俺を急かす。
俺は意を決して玄関に近づく。ドアスコープから姿を確認しようとした瞬間だった。
「あのー。ちょっとうるさいんですけどー」
と、玄関を叩く音と共に声が聞こえてきた。声はアヤカのものではなかった。
ーーお隣さんの声だ。騒いでいた俺に注意しにきたのだろう。
俺はすぐに玄関を開けて、謝罪をした。心の中では、アヤカじゃないのかとがっかりしていた。

お隣さんが帰って、玄関を閉めた俺は再び部屋に戻ってきた。溜息を吐きながら俺に淡い期待をさせたロボットをじろりと睨む。ロボットは知らんぷりをしている。そしてこう言い放った。
「アヤカ ガ モドッテクルワケ ナイデショウ」
この野郎。俺の頭はまた怒りで埋め尽くされたが、またお隣さんに注意されたくないので、どうにか踏みとどまった。そんな俺を無視してロボットは喋りだした。
「ボク アヤカ ガ カエッテキタト ヒトコト モ イッテイナイ」
「嘘つけ。お前、わざと俺に期待させただろうが」
「デモ アヤカ アナタ ト ブジ ワカレルコト ガ デキテヨカッタ」
「…お前、本当にむかつくな」
「オコリッポイ オトコ キラワレル」
「はあ!? 普段の俺はもっと穏やかだし!」
「ソウカナ?」
「俺はちゃんとしているぞ! 俺は俺なりにアヤカに尽くしてきたしさあ! アヤカこそ酷いじゃねえか! 俺をキープしておいて、俺より良さそうな男を見つけてよぉ…。問答無用で捨てやがってよぉ!!」
「ハアアア」
ロボットは、いっちょ前に溜息を吐く。
「何だよ」
俺はイラつきながら聞いた。
「ソコガ イヤダッテ アヤカ イッテイタ」
その一言が胸にグサッと刺さった。
「そ、そこってどこなんだよ! なんで恋愛したこともないロボットに言われなきゃならないんだよ!」
「タシカニ ボク ロボット ダシ レンアイ モ ワカラナイ」
「そうだろ! ロボットには感情なんて分からないんだよ」
「でも…」
急にロボットの音声が流暢になる。
「相手の立場になって気持ちを考えることが出来る。ロボットにだって知能がある。人間にだって、知能があるのに、相手の気持ちを理解しようとしない。本当に残念な生き物だね」

俺は一瞬たじろぐ。
「な、なんだよ。俺がアヤカの気持ちを知ろうとしなかったのが原因だっていうのか?」
ロボットは、すかさず突っ込んでくる。
「はっきり言ってそう。現にアナタは自分の事しか考えていない」
グサッグサッ。
俺の心はどんどんエグられていく。それでもロボットは攻撃を緩ませない。
「アナタは自分はこれだけ尽くしてやっているんだから、相手はその倍
自分に尽くしてくれなくちゃと思っていましたよね?
自分のやった事に相手が答えなかったら、それはアヤカがおかしいと無言の圧をかけていたのではありませんか?」
「は、はあ!? なんで俺が責められるんだよ! おかしいのはアヤ…」
「だからその考え方が良くないんです」
「な…!!」
「自分が正しいと思っているのなら、一人で生きていけし」
なんなんだコイツ。
「アヤカ言っていた」
おい、俺にも弁解させろよ。
「私は一生ユウマの顔色をうかがわなくちゃいけないのってね。悩んでいたし」
そ、そんなに嫌われていたのか俺は。もういい。もう聞きたくない。
「ああ、そうかよ! 勝手にほざいていろ!」
ーー俺は寝ることにした。


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