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最幸のサプライズ



数ヶ月前、招待状が届いたあの日から、
私たちはこの話題で持ちきりだった。

それは奥さんを心から愛する
新郎からのサプライズ結婚式。



「どんな服でいこうか?」
「感動するかな?」
「泣くかな??」

そう密かに話す私たちは、
いたずらっぽさを携えた
ワクワクした表情をいつも浮かべていて。

そんなみんなの表情を見つめるたびに、
「新婦さんは本当に、心から
みんなに愛されているのだな」
と、私はしみじみ感じていた。

きっと彼女は心から喜んでくれるだろう。
その姿を想像することが、
私たちにとっても幸福だった。




式当日、私は友人達と事前に集まって
せっかくの着飾った姿を収めようと
柄にもなくみんなでプリクラなんぞを撮りに行っていた。

GWの混み合ったゲームセンター内で
妙に煌びやかな装いの私たちは
そこそこ浮いていたけれど、
そんなことはお構いなしに私たちは
ノリノリでプリクラ撮影を楽しんだ。

2人へのお祝いメッセージなんかも
プリクラに書き込んでみたりして
「あとでこれ2人に渡そう」
なんて、クスクス笑いながら。

盛れに盛れたプリクラは正直、
私たちの顔の原型は留めていなかったが
それもきっと笑ってくれるはず。

受付担当を任されていた友人は
先に会場へと向かい、
その後遅れて私たちも到着した。


新婦さんには
「フォトウェディングの撮影」
とだけ伝えてあり、パーティーがあることは
もちろん一切知らされていない。

夫婦は朝から撮影に出向いており、
その隙に私たちは会場へと集まって
2人が帰ってくるのを待つことになっていた。

ホント、なんて粋な計画なんだろう。

ラフな結婚式なのでドレスコードなどは
なかったが、みんな思い思いに着飾っていて
服装も、表情も、華やかだった。

ドレスやお着物、少しラフに着崩したジャケットスタイル、上下を白と黒に揃えている人達もいた。
どれもこの日のために選んだ、とっておきの服装だ。
選んでいるその瞬間も、2人のことを
思い浮かべたりしたのだろうな。


会場へ入ると、司会を任されていた友人が
先に壇上にスタンバイしていて
いつも通りの明るい声色で、ゲストへ向けた
アナウンスをする姿が目に入った。

一見いつも通りのハイテンションに見えたものの、
やはり緊張していたようで。
時折、目をバキバキに開いて
必死に原稿に目を通している姿が
なんだか面白くて。
それをみんなで茶化したり。

2人が到着する前に
会場の全員で「結婚、おめでとうー!」
と声を合わせる練習を何度もしたり。

一年も前から入念に練られたこの計画は
92人もの参列者がいる中で
誰1人として秘密を漏らすことなく
当日を迎えることができた。
これは結構すごいことだと思う。

この団結力も、みんなの中に夫婦への
深い愛があってこそ実現できたものなのだ。


私たちがこうやって
賑やかで楽しいひと時を
同じ空間で過ごせているのは、
あの2人の存在があってこそ。

ここにある縁や絆はすべて
あの2人がもたらしてくれたもので。
そう思うと、なんとも感慨深くて
じんわりと温かな気持ちが心に広がった。



そして全員席につき、その時を待つ。

静まり返った会場。
(本当はちょっとざわついてたけど)
全員の視線は、大扉へ向けられている。
そして、ついにその時がきた。

扉が開いた瞬間、新婦さんは驚きのあまり
一瞬、声が出せずに、のけぞっていた。
数秒後、ぶわっと泣き崩れて
それを嬉しそうに見つめる新郎さんに
肩を抱かれて入場した。

そんな2人の姿に、胸いっぱいになった私たちは大きな拍手で2人を迎えた。

いつも寛大な笑顔でみんなを包んでくれている彼女は、この日ばかりは驚きと喜びで顔をクシャクシャにしながら泣きじゃくってくれた。

この瞬間を、どれほど待ち望んだことだろう。

私も涙が溢れそうになったが
せっかく念入りに化粧をした顔が
崩れてしまうまいと、必死に堪えた。

堪えきれずに泣き出してしまう人も沢山いた。
こんな幸福な涙、他にない。

そして司会者の合図に、会場の全員が
「結婚、おめでとうー!!」
と、きれいに声を揃えた。



結婚式で振る舞われた豪華な食事やウエディングケーキ、参列者へのお土産のお菓子などはすべて、2人の懇意にしているお店が用意してくれたもので、その一つ一つにも2人への想いが沢山詰まっているのがわかった。

つまり、すごくすごく、
美味しかったってこと。

結婚式といっても、妙な演出や余興は少なめで
歓談がメインのアットホームな雰囲気が漂うものだった。

新郎新婦は自由に会場を動き回り、ゲストの近くまで出向いて会話や写真撮影を楽しめるスタイル。リラックスした、いつもの2人らしい姿で過ごせる、素敵な空間だった。

式の後半。
サプライズの一つとして、2人の次女ちゃんから歌のプレゼントがあった。

普段からギターの弾き語りなどを聞かせてもらったことがあったが、本当に、贔屓目なしに、プロ並みに上手いのだ。

彼女の少しハスキーで、柔らかな美声が
会場を温かく包む。

2曲目に披露した半崎美子の「母へ」が
あまりにも素晴らしく流石に私も涙が滲んでしまった。
すぐ近くに座っていた友人パパは、お酒で顔を真っ赤にしながら、大号泣していた。

「あなたほど強い人はいない
言葉でなく生き方で
全てを教えてくれた
自分ばかりでまわりが見えない
こんな私を いつでも守ってくれたね

自分のことで涙を見せない
そんなあなたを
何度も泣かせてごめんね」

まるでこの日のために
作られたような歌だとさえ思えた。




2人はいつでも、誰にでも、分け隔てなく
優しさや愛を振り撒きまくっている人達で。

愛に見返りなんて求めるのは
ナンセンスなことだし、そんなこと勿論
当の本人たちは考えてさえ、いないのだろうけど。

それでもあの日、その振りまいた愛が
カタチとなって返ってくる瞬間に
私たちは立ち会えたのだ。

たくさんの愛に溢れた時間だった。
その場の空気がキラキラと輝いて見えるほどに。

マイクを手渡されるたびに
「こんな機会をつくってくれてありがとう」
と、2人は何度も言っていたが
それはむしろ私たちが伝えたい言葉で。

幸福な時間を、共に過ごさせてくれて
ありがとうございました。

どうか末永く、お幸せに。

そう、心から願った。

私なんかが願わなくたって
こんなに沢山の人から愛されている2人なのだから、幸せであり続けるに違いないのだけど。

「喧嘩も沢山するよ」と。いつも話しているけれど
それは互いの気持ちを受け止め合えるという、
信頼関係が築けている証なのだろう。

私なんかは、こんな素敵な2人のようには
まだまだ到底なれそうもないけれど
でもいつか、2人のように
沢山の人を愛せるような、
惜しみなく心を振りまけるような、
そんな大きな器の人間になりたい。

そんな風に、なれるだろうか。
まだ正直自信はない。

でもこの2人を、側で見つめ続けていたら、
いつかなれる日が来るかもしれない。
そう思えた。

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