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「ソーシャル・キャピタルってどうしたら増えるの?」と思った時に読むやつ。要藤正任『ソーシャル・キャピタルの経済分析-「つながり」は地域を再生させるか?』

 京都市の地域コミュニティ活性化条例は、コミュニティを「本市の区域内における地域住民相互のつながりを基礎とする地域社会」(2条(2))と定義している。これは、地域社会学的には「コミュニティ解放論に基づく社会的ネットワーク論」の立場と説明できる。地域社会を、一つのわっかでくくるのではなく、無数の人々のつながりの網の目と見る見方。

 条例には、地域住民や事業者や行政の役割は示されているが、ではどうすれば地域コミュニティは活性化するのか、ということは示されていない。なので、ここから先は別の勉強が必要になる。

 このつながり、ネットワークの性質に注目する見方は「社会関係資本論」で説明ができる。いわゆるソーシャル・キャピタルというやつだ。そこで要藤正任『ソーシャル・キャピタルの経済分析-「つながり」は地域を再生させるか?』を参照する。ソーシャル・キャピタルに関する既往研究や公的機関による統計調査などをレビューしたもので、ソーシャル・キャピタル研究の到達点が把握できる。

 本書によると、ソーシャル・キャピタルを定量化する物差しは大きく三つある(PP28-30)。

①一般的信頼の程度。これは、「一般的に言ってたいていの人は信頼できると思うか、それとも人を見れば泥棒と思うか」を問うことで測る。
②社会的活動への参加度。これは政治活動や組合活動、インフォーマルなクラブ活動など、なんらかの組織への参加の度合いで測る。
③ネットワーク。これは知り合いの人の名前を挙げて、その人との親密さなどを聞くことで測る。

 おそらく京都市の条例に言う「つながり」はこの②③をイメージしていると思われる。同時に、①がないとそもそも知らない人の組織に参加したり、知らない人と知り合いになったりしないという意味で、①も暗黙の前提にしているといえるだろう。

 じゃあ、このつながり、ソーシャルキャピタルがあることが、どんな効果を生むのか。

 まず、ソーシャルキャピタルは、取引コストを低減し、交流を増やすことでイノベーションの確率を高めることが知られている(P63)。定量的にはTFPの伸び率とソーシャルキャピタルは、少なくとも1995年から2012年のデータでは、有意な正の相関があることが明らかになっている(P64)。

 地域活動との関わりでいうと、ソーシャルキャピタル自体が効果を発揮するというより、「ソーシャルキャピタルがあることで自発的な協調行動が促され、結果住民主体の地域づくりが活発になる」という経路で効果を発揮するということが示されている(P87)。そしてそのようにして活発化したエリアマネジメント活動が、地価を上昇させ、経済的、精神的な効用ももたらす可能性が示唆されている(同)。

 こうしてみると、ソーシャル・キャピタル、良いことづくめだ。そりゃ京都市も条例でソーシャル・キャピタルを増やしたいと思うのも頷ける。ではそんなソーシャルキャピタル、どのようにして形成されるのか。

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