公営住宅密室殺人事件

 大学院時代の同期であった高橋が死んだ、という報を聞いた長野は、告別式に参列するために10年ぶりに、院生生活を送った広島へ向かった。

 高橋は、52歳だった。死ぬには早いだろう、と、告別式に集まった仲間とぼやきあった。同時に、自分たちもまたもういつ死んでもおかしくない年なんだなと、長野は思った。かつてまだまだ青白い大学院生だった仲間たちもやはり一様に老けていたし、かくいう自分も客観的に見て明らかにおじさんであった。

 式が終わり、同期の仲間でも多忙の者は早々に日常に帰っていく。同門の仲間はみんなどこかの大学で教員をやっていたり、企業で責任ある立場に就いていたりする。地方の役所でヒラの事務職をしている長野には、特に急ぐ予定はない。有給休暇だってしっかり余っている。少し大学院時代の思い出に浸りたいなと思っていたが、一人で浸るにはかつての友人の記憶も随分薄くなっている。

 そんなことを考えながら、スマホで予定を見ているフリをしてぼんやりしていると、ちょっと飯でも食っていかないか、河原に声をかけられた。河原は、わりかしちゃんとした職につきがちだった同期の中でも少し変わっていて、職を転々としていた。そういえば今は何をしているんだっけな、と思い出そうとしたが、以前会った時は海辺の村で地域おこし協力隊をやっているといっていた。

 繁華街に出て、手頃な料理屋に入った。軽めに食事をしながら話をしていく。河原は、今は地方の私立大学で地域連携担当の任期付き教員をやっているという。それも今年で終わるから、そろそろ次の行き先を考えないとなといっていた。50代でも任期付きか。俺たちが学生だった頃の教員像とはだいぶちがうな、なんていう話をした。

 2,30分ほど、近況を話し合ったところで、高橋の話になった。長野は久しく高橋とは会っていなかったが、河原は高橋と2年ほど前に会ったことがあるという。高橋は県立大学で教官をやっていて、ゼミでは学生に地域社会調査などをやらせていたという。やっていることのジャンルが近いということで、河原は高橋にSNSで連絡をとっていたのだという。

 そういえば、高橋がこんな話をしていてね、と河原は話し出した。

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