わが家の天使
あるお休みの日、私は一日中ごろごろしていた。
何もしたくない、という消極的なごろごろではなくて、窓から吹き込む風が心地よいから、それを肌に感じていたい、という積極的理由によるごろごろだ。
例年のことだが、夏が終わり涼しくなってくると、嬉しくなって、小学生のように「あーきがきーたー、あーきがきーたー♪」と歌い出したい衝動に駆られる。
窓から吹き込む涼やかな秋風を受けて、私はついムフフとにやけてしまう。
秋風を感じながらごろごろしている私の隣には、タオルケットにくるまれた天使が眠っている。
天使とは、夫・ぺこりんのことだ。
30を過ぎたぺこりんは、世間的にはおじさんに分類されるのだろうけれど、私にとってはかわいい天使ちゃんなのである。
実を言うと、ぺこりんと出会った当初は、特にぺこりんの容姿に惹かれていたわけではない。
でも、いつしか、コロコロと笑うぺこりんを目で追うようになっていた。
ずっと見ていても飽きないな、と今は思う。
もっと言えば、以前は「ぺこりんって仔犬ちゃんやコジコジみたいにかわいい」と思っていたのに、最近は「この子役さん、ちょっと”ぺこりんみ”があってかわいいわ」、とか「このぬいぐるみ、ぺこりんに似ていてかわいいから買おうかな」といった具合に、もはやかわいいの基準がぺこりんになりつつある。
ぺこりんがあまりにもかわいく寝ているとき、自分ひとりで見ているのが心苦しくなり、私は母にLINEを送る。ぺこりんの寝顔を盗撮し(良い子はマネしないでね!)、「ぺこりんがかわいいの」とメッセージとともに送ると、「あらら、かわいいね」と返ってくるから、私は満足して、またぺこりんの隣でうとうとする。
ちなみに、母は、ぺこりんのことを絵本『こんとあき』のこんちゃんに似ていると言っていた。こんちゃんは、「あきちゃん、あきちゃん」とあきちゃんの世話を焼きながらも、うっかりしっぽを電車のドアにはさんじゃったりする健気なかわいい子だ。
私も、こんちゃんとぺこりんは似ていると思う。
いちごのLINE
春先に、家の最寄駅の改札前でいちごを安く売っていた。
ぺこりんは、電車で通勤しているため、いつもそのいちごが気になっていたらしい。
「安いけど、甘くなかったらどうしよう…」とぺこりんが神妙な顔つきで相談してくるので、「甘くなかったらジャムにするから、大丈夫だよ」と言うと、ぱぁっと顔を明るくしていた。
ぺこりんのLINEは、基本的に絵文字やスタンプを使わずに、素っ気ない文章のことが多いが、いちごを買ってくる日は「今から帰ります🍓(いちごの絵文字)」、「いつもより一本早い電車です🍓(いちごの絵文字)」と、ぺこりんのいちごに対するウキウキ感が反映されたLINEが送られてくる。
私も、「気をつけて帰ってきてね🍓(いちごの絵文字)」と返事をしておいた。
いちごは、4パックが入るであろうダンボールに直接ごろごろと入って、300円だった。そのまま食べても甘酸っぱくて美味しかったけれど、ジャムにもした。
ジャムを煮ている間、部屋の中が甘酸っぱい香りに満たされる。
ヨーグルトにのっけたり、バニラアイスに混ぜたり、紅茶にちょっと垂らしたりして食べるのを、ぺこりんはとても気に入ったらしく、何度もいちごを箱買いしてきた。
夏の間はいちごが売られなくなってしょんぼりしていたぺこりんだが、秋になって、またいちごのLINEが送られてくるようになった。
苦手なこと
先月、ぺこりんと近場の街に旅行した。
私は旅の予定を立てるのが好きだから、だいたいは私が決めてしまう。
でも、せっかく二人で行くのだからと、ぺこりんにおいしそうなスイーツのお店を調べておいてくれる?とお願いした。ぺこりんは甘いものが好きなのだ。
ところが、「ぺこりん、それ苦手と思う」と断られた。
あんなにスイーツが好きなのになぜ?
と私は不思議だったが、ぺこりん曰く「ぺこりんには全部おいしそうに見えちゃうから、決められない」とのこと。
アマプラ鑑賞
我が家には、テレビがないので、iPadでアマプラのドラマや映画を観る。
おふとんに入ったり、人をダメにするクッションに背中をあずけたりしながら、肩を寄せ合って観る。
この前は、ドラマ『最愛』を観た。
ぺこりんは、ドラマのセリフを日常に取り入れるのが得意だ。
ドラマを観た次の日、「もも、好きやよ、ぎゅー♡」とハグしてくる。
「松下洸平は"ぎゅー"とは言ってなかったよ」とツッコんだが、「そこは、ぺこりんのオリジナルやよ!」と返された。
それから、つい先日、『スパイファミリー』のシーズン2が配信になったから、二人でワクワクしながら見た。
見終わったあと、「ペコリーニャ、まだ寝ない!もっと見る!」と目をキラキラさせてアーニャになりきっているぺこりん。
「ごめん、これ全話配信になったわけじゃなくて、1週間に1話ずつ更新されていくみたい」と言うと、ペコリーニャはシュンとしていた。
せっかちな私は一気見できるのにも魅力を感じるけれど、次の配信をまだかなぁと二人で待つのもなんだか楽しい。
バカップル
あるとき、ぺこりんが「かわいいね」と言ってきたので、「いや、ぺこりんのほうがかわいいよ」と言うと、「もものほうが」「ぺこりんのほうが」としばし言い合いになった。
言い合いがおさまったあとで、「これじゃあ、まるでバカップルだ…」と私はボソリと呟く。
すると、ぺこりんは「ももはバカじゃないよ。いい子だよ!」というので、私は「それなら、ぺこりんはもっといい子だよ!」と言い返す。
「じゃあ、ぺこりんとももは”いい子カップル”だね」とぺこりんはにこにこしている。
またもや、バカップルのお手本みたいな会話を繰り広げてしまった。