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忘れられないクリスマスプレゼント

クリスマスの時期が近づいてくると、思い出すプレゼントがある。

恋人でもなんでもない、二人の男友達からのプレゼント。
たぶん、二人は私に贈ったことを覚えてすらいないだろう、そんなプレゼント。


大学1年生の冬休みに、音楽系サークルの同じパートの彼らとランチをしたときに、私からプレゼントを渡した。

それは、自分から贈る、男の子へのはじめてのプレゼントだった。

中高がほぼ女子校だった(共学だったけれど、クラスに5人しか男子がいなかった)から、あまり男子と関わることはなかった。クラスの男子は、女子を勝手にランキングづけしたりしていて、ちょっと苦手だった。

大学に入ったら、男子がたくさんいて、はじめは戸惑った。
サークルにも、女子の倍くらいの男子がいた。
男子と仲良くなれるか不安だったけれど、サークルで同じパートになった二人は、どちらも話しやすくて、優しかった。
重い荷物を持っていると、さっと持ってくれたし、飲み会で話についていけないなと思っていると、話を振ってくれたりした。

私は、二人と同じパートでよかったと思っていた。

二人と一緒にランチをしようと約束していた冬休みのある日、本屋で時間を潰していた私は、突然、彼らに贈り物をしたいと思った。

ちょうど街はクリスマスムードだったから、いつもありがとうというのは恥ずかしいけれど、クリスマスにかこつけて、何かあげることならできるかなと思ったのだ。

急な思いつきで、あまり時間がなかったので、本屋でふたりのイメージに合った本を選んで、贈り物用に包んでもらった。
ふんわりとした雰囲気のKちゃん(男の子だけどちゃんづけで呼んでいた)には、村山早紀さんの『カフェかもめ亭』を、インテリっぽい雰囲気のT君には、恩田陸さんの『三月は深き紅の淵を』を選んだ。どちらも、私が大好きな物語だ。

ランチを終えて、帰ろうとする二人に、プレゼントを渡した。
プレゼントを渡したとき、二人はきょとんとしていた。

二人と別れた後で、きょとんとしていた二人の表情が少し気になり始めた。

本をあげたけれど、二人が本を読んでいるところって見たことがないぞ。それに、私の周りの友達は、文学部だし本を読む子も多いけれど、彼らはどちらも工学部だ。しかも、私の大好きな本だけれど、あの本は男の子たちの気にいるだろうか。いつもありがとう、という気持ちで渡したのに、困らせちゃったらどうしよう、と私は家に帰ってからもぐるぐると考えていた。


数日後、二人からそれぞれLINEがきた。
いつもは短文かスタンプしか来ないのに、ふたりとも長文LINEだった。
あれから、何台もスマホを変えたから、そのメッセージは残っていないけれど、そのときの内容はよく覚えている。

『カフェかもめ亭』をあげたKちゃんからは、
「ももちゃんからもらった本、全部読んだよ。
ほんわかしていて温かいお話だった。
どの話も好きだけど、最後の話が一番好きだな。」
という感想の後に、いちばん最後のお話の感想が綴られていた。

まず、全部読んでくれたことが嬉しかった。
そして、丁寧な感想をくれたことも、とてもうれしかった。
余計なことをしたかもしれない、という私の気持ちを溶かしてくれるLINEだった。
でも、KちゃんからのLINEを読んで、一番最後のお話を私は読んでいないことに気づいた。私が読んだことがあったのは、単行本版で、Kちゃんに渡した文庫版には書き下ろしの短編がついていたのだ。だから、そのLINEがきたときに、Kちゃんが一番好きだと言ったお話を知らなかった。でも、後日、文庫版を読んでみて、一番最後のそのお話は、優しいKちゃんにとても似合うなと思った。


『三月は深き紅の淵を』をあげたT君からのLINEは、
いろいろと本への考察がつづられていて(その部分は申し訳ないけれど、よく覚えていない)、
「超好みの本だった。今までこの作者の本読んだことなかったけれど、これから読んでみる。」と締め括られていた。

そうそう、T君ならこの面白さをわかってくれると思っていたよ、とLINEを読みながら笑った。面白かったという興奮が文面から伝わってきて、面白い本に熱くなれる仲間が増えたような気がして嬉しかった。こんなふうに喜んでもらえて、プレゼントを贈ってよかったと心から思った。


二人にプレゼントをあげたのは私だけど、あげた私の方がうれしかったと思う。
プレゼントを渡した後で、余計なことをしたかな、と思いながらも、二人なら喜んでくれるとどこかで思っていた。
優しい彼らならきっと受け取ってくれるはずだと甘えていたのだ。

私のそんな甘い期待が裏切られることなく、彼らは、期待以上に、私のプレゼントをやさしく受けとめてくれた。
そのことが、私にとっては、今も忘れられないクリスマスプレゼントなのだ。

二人は、私にプレゼントを贈ったことなんて覚えていない、というかプレゼントを贈ったとすら思っていないだろう。



私は、どちらとも恋仲になることもなかったし、卒業後は一度も会っていない。

けれど、二人は、私にとって今でもとても大切な人だ。

そして、二人からもらったクリスマスプレゼントは、これからも私の大切な宝物でありつづけると思う。

いつかまた二人に会えたらいいな。









⭐︎おまけ⭐︎

この記事を読んでくださり、クリスマスをひと足早く感じたあなたへ。

クリスマスにはまだ早いけれど、私の大好きなクリスマスソングを贈ります。


手嶌葵さんの歌うクリスマスソングは、雪の降る静かな夜に溶けてしまいそうな歌声で、ふんわりとやさしく包み込んでくれます。