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カメラの天使

「カメラを持つと、暇な時間がなくなるの。」
とカメラの天使は、私に言った。


カメラの天使というのは、私の親友で、彼女はみんなから天使ちゃんと呼ばれていた。
彼女は、見た目も中身も天使そのものだった。


彼女のことは、何度も大学の授業で見かけていた。いつもかわいらしい彼女は、どの教室にいても目立っていた。
フランス語の授業で、彼女は私のすぐ後ろの席だった。
でも、話しかける勇気はなかった。

ところが、そんな私に転機が訪れる。
私の大学では、大学に入ってから専門に分かれるのだが、希望する研究室を訪問したとき、彼女がそこにいた。
彼女は、研究室の先輩たちとすでに打ち解けていた。
私は、おそるおそる先輩やその子と話し始めると、先輩たちから、私とその子の雰囲気が似ているね、と言われた。私と彼女の共通点は、声が小さいことと、持ち物の趣味が少し似ていることだけだったけれど、なんとなく嬉しかった。
私たちは、ぽつりぽつりと囁くように話し始めて、でもどうしたわけかものすごく息が合った。初めて話したその日に、いつか一緒にヨーロッパに行こうという約束までしていた。そして、その約束は数ヶ月後に果たされることになる。

彼女は、カメラをいつも持ち歩いていた。
彼女の好きな人は、写真の好きな先輩だった。
彼女は、カメラの話になると、恋をしている女の子の表情になる。
先輩に恋をしながら、カメラにも恋をしているようだった。


あるとき、電車が遅れて、彼女との待ち合わせに遅れてしまったことがあった。
ごめんね、待たせたねというと、彼女は待っていないよと言って、私が来るまでの間に撮った写真を見せてくれた。
駅の花壇に咲いていた花、駅前の夜の風景、駅のステンドグラスなど、彼女が切りとるものたちは、どれもキラキラとしていた。
「街を歩いていても、誰かと待ち合わせをしていても、はっとする瞬間があって…カメラを持つと、暇な時間がなくなるの。」
と言っていた。彼女の言葉は、待たせてしまったという私の罪悪感を消してくれた。

毎日見過ごしてしまう風景を、彼女は切り取っていた。カメラは彼女の眼そのもので、写真は彼女の見ている世界そのものだった。

彼女は人物を撮るのもとても上手だった。彼女が撮る人物は、とても優しげに見える。でも、それは、カメラを持つ彼女に向けた表情だからなのだと思う。天使のような彼女を前にすると、だれでも優しい顔になる。

私は、社会人になってから、彼女と同じカメラを買った。
けれども、まだ彼女のような写真を撮ることはできない。
でも、彼女の言葉のとおり、カメラを持って街に出ると、暇な時間がなくなるなと思う。どの瞬間にも、煌めきがかくされているような気がするから。


noteのヘッダー写真は、すべて自分が描いた、もしくは撮ったものだけど、ほぼ毎日noteを書いていると、ネタ切れしそうだ。
今日は、久しぶりにカメラを持って出かけようかな。


おまけ

私のお気に入り写真たち。noteの見出し画像に使っているものも多い。
私の好きな色が、一目瞭然だ…笑

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