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野に、咲く。14

野に、咲く。  第十四話

「血風、吹き荒ぶ」 その3

記憶をたどり、打撃により鼻血を出した時のことを思い出した。

拳が当たり痛みが顔いっぱいに広がり、鉄の匂いが鼻の奥から込み上げてきて、遅れて血が噴き出す。

血液には鉄分がたくさん含まれているのだとわかる瞬間でもある。

姉に殴られたときに起こる現象の一つ、出血。 たまったもんじゃない。

小さい時から仲が悪くいつも嫌いで四十歳を超えた今でも姉とは、疎遠で

最後に話したのは17年前。

その後 ”話さない、会わない、目も合わさない” で、現在に至る。

姉と殴り合わなくなったのは、僕が中学生になった頃、姉に力で優ってしまった事に気づいた時だった。

その頃の姉は、友達とも遊ばず、学校から帰るとすぐに勉強、夜中まで勉強、塾などに行かず

自力で勉強、主に英語を集中的にしていた。 見ていたテレビは英会話、映画も見るけど英語の

勉強、ウォークマンで聴くのも英会話、英語、英語、英語の毎日で留学した後、

英語しか使わない 職業につき、30歳の頃優しい方と結婚し、一児の母になり、何不自由なく

暮らしている。

小さい頃から大嫌いだった、僕が寝ていれば、耳元で大きな叫び声で起こされ、

髪の毛は燃やされ、濡れたタオルで殴られ、崖から落とされ、船から落とされ、川に落とされ

背中に熱湯をかけられ、針で刺され、唐辛子を食わされ、閉じ込められ、接着剤で両手を

くっつけられ、ブランコに乗ってるところドロップキックされた。

 姉に良いことをされたことも、優しくされたこともないが、寝ずに勉強していたことは

知っている。友達と遊ばず、流行りのことはせず、テレビも見ず勉強していたことは

知っている。努力し自分の力で就職し、さらに向上し、なりたかった職業に就いたことは

知っている。優しい人と出会い家族ができ、母の面倒も見てくれていることは知っている。



姉は生まれた時から体に疾患があり両親からも祖父母からも心配され、育った。

その後、なんと間が悪い時に生まれたのが僕。災いをもたらす “鬼の子じゃ”と

よく言われたのもわからないでもない。


姉は疾患はあったものの長期の入院生活もなく健康に今も生きています。


母や周りの人たちに優しく、家族に深い愛情を注いで、自分の力で幸せになった。

それは弟の僕から見れば尊敬にも値する。



姉の幸せが、素直に嬉しいと思えるようになったのは、

姉に生かされていたからだと気づいたから。


仲がいいだけがいい姉弟ではない、僕と姉の関係はこれでいい、


幸いなことに僕には、血のつながりはないけど、優しい姉がたくさんいます。



つづく



 



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