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オクトパストラベラーの「HD-2D」の何が革新的なのかを語らせてくれ。

ノンジャンル人生です。
どうやらオクトパストラベラーの売れ行きが好調のようですね。自分も元々は購入未定でしたが、デモ版の触感が良かったことが買うきっかけのひとつとなりました。

さて、本作のグラフィック表現「HD-2D」の評判がかなり良いようです。ドット絵という確立したジャンルにメスを入れ、新しい表現として生まれ変わらせたのは本作最大の発明と言えます。しかし、なんとなく評判を耳に挟んだだけの人にとっては、何が凄いのか、普通のドット絵と何が違うのか分からないかもしれません。そこで今回は、「HD-2D」がいかに革新的かつ合理的なのかを分析してみたいと思います。

ドット絵という表現の遍歴

大前提として、ドット絵とはディスプレイやテレビに映像を出力する最小単位のマス目であるドット(ピクセル)によって描かれた絵のことです。昔は解像度や色数が制限されており、限られた表現の中でいかにゲームを動かせるかが重要でした。

ドット絵の有名な話が、「マリオにひげがある理由」。16×16ピクセルでキャラクターを描く際、どうしても顔を書き切るのにはドット数が足りません。そこで、鼻の下にひげを描くことによって口を描く必要をなくした、という逸話があります。他にもドットの制限の中でキャラを描くための様々なアイデアが、マリオのデザインに備わっています。

やがて世代が進みゲーム機の性能が上がるにつれ、ドット絵の制限は緩和されてきました。この頃になるとドット絵の技術が高まり、鮮やかで美しいビジュアルのゲームが人気を博します。特にスーパーファミコン後期のスクウェア(合併前)のゲームは、至高のドット表現として未だ語り継がれています。

しかしプレイステーションやセガサターン、ニンテンドー64の出現により、3Dのゲームが主流になる時代に突入します。RPG、アクション、格闘ゲームなど人気ジャンルのゲームが次々と3D化し、ドット絵は次第にそのあおりを受け、マイナーなゲームグラフィック表現としての烙印を押されていくのです。また、さらに世代が進んで画面が高解像度化したことにより、2Dを無理にドットにせずイラストでよくなったのも拍車をかけました。

それでもドット絵の火が完全に消えることはなく、安価で手軽な携帯機では生き残り続けました。ニンテンドーDSが世界的にヒットしたことで、新しくゲームを触る世代でもドット絵を慣れ親しんだ方も多いでしょう。海外のPCインディーズゲーム界隈ではドット絵のゲームの人気は根強く、数々のヒット作が生み出されています。コンシューマ機への移植で、その魅力に気づいた方も多いはずです。

また、ドット絵をゲームから離れたピクセルアートとして表現する動きも盛んになりました。角ばったデフォルメで描かれたイラストの可愛らしさが受け入れていき、今やファッションとしても人気です。

かつてゲームの主流だったドット絵は、ゲームの進化とともにマイナー表現となるものの、その魅力が次第に再認識され現在に至るという流れです。そしてここで、「オクトパストラベラー」というRPGが発売されます。

HD-2Dはドットをただ立体化した表現ではない

先日スクウェア・エニックスから発売されたNintendo Switch向けRPG「オクトパストラベラー」は、ドット絵を立体化させたような映像表現で発売前から話題を集めました。前回のnoteでも書いたとおり、ドットのテクスチャを貼った立体的なマップ+ドットのキャラクター+高解像度のエフェクトを組み合わせ、さらに手前と奥をぼかしミニチュア写真のように仕上げることで、懐かしいようで新しいゲームグラフィック表現を作り上げています。

実際に動かしてみると、立体と平面が合わさったグラフィックでも不自然ではないところに驚かされます。例えばドットのキャラクターが薄いハリボテのように感じることはなく、フィールドと上手く噛み合っています。また高解像度のエフェクトは場合によってはちぐはぐさを感じてしまいがちですが、こちらも自然なバランスを保っています。実際Switchのスクショ機能を使ってみると、些細なシーンでもひとつの絵画のようにさまになります。

ただ立体化させたのではなく、別のグラフィック表現同士の整合性を図ったことこそが、本作のビジュアルが美しい理由だと思います。

2DRPGの弱点である16:9の画面への最適化

かつてのゲーム画面の比率は4:3でしたが、現在では16:9が主流となっています。16:9世代では多くの市販RPGが3D化されているので気づきにくいのですが、実は2D見下ろし型のRPGは、横長の画面サイズだと左右の余剰を生んでしまうという欠点があります。4:3世代の2D見下ろし型RPGは、画面の上下左右を活かしながらゲーム内で演出を行ってきましたが、16:9の場合は縦部分の長さが足りず(または横に間延びして)演出に制約が出てしまいます。マップに関しても、街やダンジョンの進行方向が上へと進むケースが多いのにもかかわらず、左右の視野の方が広いというバランスの悪さも感じてしまいます。

それに対しHD-2Dはドット絵を用いながらも奥行きや高さが存在しています。背景として美しいグラフィックを見せつつ、ひと画面の中でデフォルメされたキャラクター達がポーズを取りながら動き回ることで、16:9の画面比率を有効活用出来ています。ダンジョンにおいても前後左右斜めの進行方向の視野をカバー出来ており、ドット表現ながらも高低差を感じられたり、奥ほどぼやける演出のおかげで未開への探索感を出せたりというメリットもあります(初期設定だと画面四隅が暗めで見づらいですが)。

奥行きや高さの存在もあってか本作の演出は舞台的であり、まさに舞台で演じる役者を見るような感覚を覚えます。自分は以前より「2DRPGは舞台的」であると考えていました。3D全盛期になってから多様なカメラワークやカットシーンを使った映画的な演出のゲームが増えましたが、ひと画面の中に多くのキャラクターたちが演じる演出は派手さはなくとも独自の魅力があると思っています。FF6は劇中にオペラ演出がありましたが、あのシーンこそまさに2DRPGと舞台の相性の良さを物語っています。

フルプライスで売れる納得性

2018年現在、ドット絵のゲームがフルプライス(据え置き機だとだいたい7,000円以上)で売られている例は、あまり多くありません。新作の多くが1,000~3,000円ほどです。マイナーなゲームグラフィックだから価値が低い、または少人数での製作だからというのもあるかもしれませんが、ドット絵の新作ゲームはまったく別の面で問題を抱えています。それは、ドットで描かれた往年の名作が、すでに低価格で売られていることです。

かつては古いハードが動かない限り遊べなかったレトロゲームですが、現在では様々な手段で遊ぶことが出来ます。バーチャルコンソールやゲームアーカイブス、スマホ移植やコレクション版。最近だとミニハードに大量のゲームを入れているものが人気です。どれも低価格であり、比較的手軽に購入して遊ぶことが出来ます。

そういった再販されるものの多くがすでに評価されている名作です。そのため、ドット絵の新作ゲームは否応無しに低価格で販売されている名作と比較される事になってしまいます。なので現在フルプライスでドット絵のゲームを販売することのハードルは非常に高いのです。

しかしながら上記の通りドット絵の表現にはドット絵だからこその魅力があります。そんなドット絵でもフルプライスで買う価値はあるかという問いに答えたのが、オクトパストラベラーのHD-2Dです。

率直な自分の感想としては、このグラフィックだけで買う価値は大いにありました。ドットだから劣るということは全く無く、適当に歩くだけでもその美しさを感じられます。むしろ3Dグラフィックよりも新鮮なためか、ずっと探索していても飽きません。ゲームバランスやシナリオ進行は独特なため、旧来の名作と比べると遊びづらい部分もあるかもしれませんが、それでも他にないビジュアルを体感するために買う意味はあると思います。

2DのRPGにはまだ進化の余地が残っている

自分が子供の頃初めて遊んだ大作RPGはFF8で、その時はすでに3D全盛期でした。その当時自分もまたドット絵は古いものだとなんとなく思っており、ちょっと昔のゲームを遊んでも、「ふーん」という感覚しかありませんでした。ですが、「聖剣伝説LEGEND OF MANA」と出会い、数ドットの変化だけで笑ったり泣いたりする小さなキャラクターたちが、美しい世界を冒険していく姿に心を打たれました。どんなリアルなグラフィックのゲームが並んでも、どんなにゲームバランスが優れている作品を遊んでも、あのゲームが一番好きなRPGであることに変わりはありませんでした。

ですが、それ以降2DのRPGはめったに出なくなりました。自分はあの時の続きを求めている、しかし世間の需要はないとみなされ、3DのRPGばかりが発売されました。それもあってかここ数年はフリーゲームとバーチャルコンソールのドット絵のRPG漬けであり、名作を見つけるたびにドット絵だから劣るなんてことはないとずっと思っていました。でもどんなに面白いRPGを遊んだところで、未来永劫ドット絵のRPGがまたはやることはないだろうと心の底では諦めていました。

なので、声を大にして言いたい。俺はこの時をずっと待っていたんだ。マイナーが何だ!そんなの関係ない、2DのRPGは代えがたい魅力がある。だから、その後継作が絶対必要なんだと!

本当に、この流れがオクトパストラベラーだけで終わってはいけないと思っています。HD-2Dの新作も、普通の2Dの新作RPGも、メジャーインディー関係なくどんどん発売されてほしいし、開発者に挑んでもらいたい。自分も作りたいし、周りも応援していきたい。RPG黄金期の夢の続きを見せて欲しい。

まだプレイ途中なので、もしこのまま進めていったら酷いバグや展開によって「つまらなかった!」という結論に達する可能性も否めません。だからこそ熱が冷めやらぬ前に今の思いを書き殴ってみました。

ちなみに今のところめちゃくちゃ面白いです。8人の1章を終えた後、メインストーリーや地域の危険度LVを無視して、あっちやこっちを冒険するのが楽しい。危険を顧みずLVの高いダンジョンに突入して強い装備をゲットしたり、リセットを繰り返して平穏な村に住むババアの危険な秘密を探ったりと遊び応え十分。こういうことですよ、RPGって。(逆にストーリーだけを追いたい人にとってはLV上げや会話テンポの悪さで面倒かもしれません)

奇しくも、今となって大好きだったスクウェアが「やぁ」と帰ってきた感じです。15年か20年くらい帰ってくるのが遅し、俺ももう年をとってしまったよ、いや、でも本当に帰ってきてくれて良かった。

ということで、冒険の続きへと再び旅立とうと思います。ではでは。



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