見出し画像

どんな抱負や希望を語ってもそれが過去から学んでないならば、それは空疎であることをまぬがれません──岩波書店編『私の「戦後70年談話」』

「安倍晋三首相が立ち上げた戦後七〇年談話の有識者会議のなかに、戦争体験者はどれだけいるのか。いたとしても、実際に戦争の被害を受けたり、悲惨な体験をした人はほとんど入っていないと思います。戦後七〇年をどう考えるかについて、ほとんど戦争体験のない人で話し合うことにも疑義を感じます」(丹羽宇一郎さん)

この本に収められた確かな体験を持つ人たちの言葉の重みに匹敵するものとはどのような〝談話〟なのでしょうか。どんな抱負や希望を語っていてもそれが過去から学んだ事柄が含まれてないならば、それは空疎であることをまぬがれないと思います。

執筆された41人の人たち、どこで終戦の日を迎えたのか、その時の年齢はいくつだったのか、同じ戦争体験といってもさまざまなものがあります。
けれど一つのことだけははっきり共通しています。
「戦争はやってはいけない。殺人行為です。いいことは一つもない(略)命を懸けててまで人殺しをする必要はない」(奈良岡朋子さん)のであり「戦争を起こすのが人間なら、戦争が起きないよう努力できるのも人間です(略)人間には言葉があり、表現する力がある。それらを使って、戦争が二度と起きないように知恵を働かすべきです」(ちばてつやさん)

戦争に振り回された幼少年期、僥倖に助けられ満洲から引き揚げてきたちばてつやさん、その同じ満洲で侵攻してきたソ連軍に撃たれ(宝田明さん)、またソ連軍の暴虐を目の当たりにした(ジェームズ三木さん)と……。
内地でも学徒の勤労動員(梅原猛さん)や学徒動員で特攻(自爆)訓練を強いられた人(上田閑照さん)、灯火管制(山藤章二さん)や東京大空襲(三遊亭金馬さん)の記憶を語る人。トラック島での軍隊体験を語る金子兜太さん、在日二世として生きた梁石日さん、みなさんの言葉の重みがどのようなものであるのか、戦争を知らない人たちにこそ繰り返し思いをはせなければならないものではないでしょうか。さらには新崎盛暉さんのこの言葉を私たちはどのように受け止めればいいのでしょうか……。
「同じ戦後七〇年といっても、沖縄と、ヤマト(沖縄を除く日本)では、大きく様相を異にする。まず、八月一五日の日本の敗戦を、沖縄の多くの民衆は、米軍の収容所の中で、米兵が打ち上げる祝砲によって知った。それさえも知らず、ガマと呼ばれる洞窟の奥に潜み、山野を逃げ回っていたいた人びとも少なくなかった。地上戦が行われた沖縄では、日本軍の組織的抵抗が終わった六月二三日が「慰霊の日」と呼ばれる終戦の日である」

戦争は天災ではありません。人間が起こすものです。そしてまた、だからこそ「戦争は始まってしまうと、どうにもならない。否応なしに殺しても心が痛まない敵をつくり、こっちも殺されるから憎しみがこみ上げて、殺し殺されになってしまう」(山田太一さん)ものになります。

この本に〝談話〟を寄せた方たちは次のみなさんです。(敬称略)
宝田明、中川李枝子、ちばてつや、高見のっぽ、海部俊樹、山中恒、山藤章二、山田太一、日野原重明、梅原猛、香川京子、金子兜太、奈良岡朋子、森村誠一、ジェームス三木、梁石日、山田洋次、三遊亭金馬、神宮輝夫、古在由秀、入江昭、上田閑照、益川敏英、辰巳芳子、高畑勲、丹羽宇一郎、保阪正康、新崎盛暉、C・ダグラス・ラミス、不破哲三、加納実紀代、野中広務、村山富市、五木寛之、長尾龍一、坂野潤治、半藤一利、池田武邦、野坂昭如、石田雄、澤地久枝。

「このままで終わるとは思えない。心ある人びとは、男も女も、安らかに眠ることのできない、明日への不安を抱いて、夜を過ごすのだ。眠れば、「悪夢」を見るだろう」(澤地久枝さん)の言葉で終わるこの本を、ここに込められものを私たちは簡単に閉じてはいけないのではないでしょうか。

書誌:
書 名 私の「戦後70年談話」
編 者 岩波書店編集部
出版社 岩波書店
初 版 2015年7月3日
レビュアー近況:湘南新宿ラインに乗ると、必ず眠くなる野中です。昨日もあわや下り終点の平塚まで行くトコロでした。これが逆方向(上り)だと、宇都宮で餃子で一杯一泊コースです。涙。

[初出]講談社BOOK倶楽部|BOOK CAFE「ふくほん(福本)」2015.08.21
http://cafe.bookclub.kodansha.co.jp/fukuhon/?p=3971

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?