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沖縄が今後の日本の政治のあり方を決めていくキーポイントになっていく──宮崎学・佐藤優・田原総一朗『「殺しあう」世界の読み方』

2015年、春、ペリリュー島を訪問された天皇・皇后両陛下に触れて田原さんがこう記しています。

「81歳という高齢を押して訪問された天皇には、いまの日本に強い危機感があるのだろう、と私は思う。天皇は「太平洋に浮かぶ美しい島々で悲しい歴史があったことを忘れてはならない」と述べ、国を問わず戦争の犠牲者を悼み、平和を強く祈念された」
そして「天皇・皇后と同じように平和を願う日本や日本人が、いま、否応なく巻き込まれつつある」大混乱に私たちがどのように対すれば良いのかを徹底的な討論で解き明かしたものがこの本です。
対話の相手は宮崎学さんと佐藤優さん、いずれも鋭い舌鋒で本質を突く活動をしているお二人です。

ピケティとマルクスの違いから論議は始まり、現在の資本主義はどのような姿をしているのか、「社会主義の崩壊は、旧ソ連を中心とした東ヨーロッパ圏に多い。(略)アジアにおける社会主義国は、崩壊していない」(宮崎さん)のはなぜか、「強そうな生き物のあちこちのパーツがくっついている怪獣」(佐藤さん)のような国である中国の指導者層の狙っているものはなにかという原理論、世界情勢分析が詳細に分析されています。

そして世界の分析から日本の現状分析へと話は進んでいきます。お二人(田原さんを入れれば3人ですが)は今の日本をどう見ているのか……極めて興味深い知見を摘出し続けています。いくつか紹介してみます。
まず2014年末の総選挙がもたらした自民党の一人勝ち、一強他弱の政治を佐藤さんはこう分析します。「勝利したのは公明党だと思う」と。公明党の支持母体、創価学会の集票力に着目して、
「小選挙区ごとに、たとえば2万~3万票を集めることができるわけです。すると今回、小選挙区全部の結果を調べて、次点との差が2万票以内で当選した与党候補は、創価学会の指示がなければ、実は落選だった」
こういう視点がリアルポリティクスというものなのでしょう。安倍政権が先般の〝法的安定性発言〟に公明党が難色を示すとすぐに礒崎首相補佐官に釈明(参考人招致)をさせたのも案外公明党の顔色を安倍首相がうかがったのかもしれません。

そして沖縄問題……。佐藤さんはこう話しています。
「首相官邸が形で辺野古への移設を進めると、沖縄の翁長さんはどうするか。私は、国連総会に出ていくと思います」さらに続けて「「国連総会第3委員会」が人権、人道、社会問題を扱うことになっている。(略)ここに沖縄米軍基地の問題を持ち込んで、沖縄の状況はこうなっていると世界に対して説明し、一種の民族自決権、自己決定権を行使していく、という方法があります」
この言葉どおりのことが起きようとしています。「スイスのジュネーブで9月14日~10月2日の日程で開かれる国連人権理事会で、翁長雄志知事が辺野古新基地建設問題について演説するための見通しがついた」(『琉球新報』より)のです。
ここにきて官邸の辺野古の全工事1ヵ月中断は、安倍政権の支持率回復の算段と同時に、翁長さんの国際連合人権理事会演説をにらんだものかもしれません。

さらには
「地元の人が嫌だということは、やりません」というのがアメリカの原則です。沖縄が嫌だといえばアメリカはやりません。ところが、アメリカに対する日本政府の説明では、地元の沖縄は大歓迎していることになっているんです」
という日本の振る舞いに
「沖縄は「もう本土とは、わかり合えないんだな。わかり合えないんだったら、説明しても意味はない」という段階にきています」(佐藤さん)
「歴史的に沖縄の犠牲の上に本土が成り立ってきたという構造があり、しかもその構造を、できるだけ見たくもないし知りたくもない本土の人間が多い、ということですよ」(宮崎さん)
そして「沖縄が今後の日本の政治のあり方を決めていくキーポイントになっていく」(宮崎さん)と読者の注意を喚起しています。
この事態を「安倍さんのほうが、惨事が起こるように持っていっているじゃないか」(宮崎さん)「安倍政権は、いっていることとやってることが逆みたいな話ばかり。それを全然問題と思わないから、あちこちでトラブルを起こすような問題が山積している」(佐藤さん)といった中に私たちは置かれているのです。

なぜこうなってしまったのか、その象徴的な出来事が衆院選後のインタビューにありました。それは「一方的に話すだけの首相インタビュー」という出来事でした。
「聞きたくないのは聞かない」(佐藤さん)安倍さんの姿勢、「インタビュアーの質問を聞かない首相の一方的な発言を放送してはいけない」(宮崎さん)のではないでしょうか。
安倍さんは「客観性や実証性というものを軽視もしくは無視して、自分が理解したいように世界を理解する、という反知性主義にとらわれている」(佐藤さん)であり、自己勝手な物差しで世界をはかってるということなのです。
そして、
「処分的条約をひっくり返すのは、ちゃぶ台返し。ちゃぶ台返しをすると、ベルサイユ条約をひっくり返したナチスと同じになっちゃう」(佐藤さん)
この懸念が去らない安倍政権とその親衛隊(お友だち)の言動はじっくりとみていかなければならないと思います。
それはこの本にあるように「殺しあう! 「戦争が起き続ける」世界」の中で私たちがいかに生きていくかを考えるためにも必要なことだと思います。
対話で深まる認識というものがあるということをあらためて感じさせてくれる刺激的な1冊でした。

書誌:
書 名 「殺しあう」世界の読み方
著 者 宮崎学 佐藤優
編 者 田原総一朗
出版社 アスコム
初 版 2015年6月4日
レビュアー近況:何年か振りにしゃぶしゃぶのチェーン店に行きました。お肉や野菜、お酒やソフトドリンクがそれぞれ数十種から食べ飲み放題で、吃驚。そもそもお鍋のスープも沢山種類があって、戸惑い捲りでした。

[初出]講談社BOOK倶楽部|BOOK CAFE「ふくほん(福本)」2015.09.07
http://cafe.bookclub.kodansha.co.jp/fukuhon/?p=4060

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