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講談社BOOK倶楽部「今日のおすすめ」野中幸宏選02

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講談社BOOK倶楽部&講談社コミックプラス「今日のおすすめ」に掲載された野中幸宏のブックレビューをまとめています。
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地道な努力では成功しない!? ハッカーと企業家の共通点を盗む本|『時間をかけずに成功する人 コツコツやっても伸びない人 SMARTCUTS』(著:シェーン・スノウ 訳:斎藤栄一郎)

地道な努力では成功しない!? ハッカーと企業家の共通点を盗む本|『時間をかけずに成功する人 コツコツやっても伸びない人 SMARTCUTS』(著:シェーン・スノウ 訳:斎藤栄一郎)



・小さな成功を地道にたくさん積み重ね、大きな成功にたどり着こうとする。

・自分の実力をひたすら磨き、一人でがんばる。
・とことん考えた自分のアイデアを自分流に発表する。
・何事も全力投球。どんな仕事でも「100点」を目指す。
・どんな環境であっても、すべての案件について個別に努力する。
・新しい商品やサービスで未知の市場を創る「ファースト・ムーバー」を目指す。
・人脈を広げようと、いろいろな

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【恐怖】憲法はどこへ? 辺野古の人権侵害、権力の独裁、無謀な戦争|『憲法という希望』(著:木村草太 対談:国谷裕子)

【恐怖】憲法はどこへ? 辺野古の人権侵害、権力の独裁、無謀な戦争|『憲法という希望』(著:木村草太 対談:国谷裕子)



講演と国谷裕子さんとの対談で構成されたこの本は、深い内容を読みやすく語った憲法の入門書であり、また具体的な例で法構成(解釈)を解説していかに「憲法を使いこなす」かということを示した出色の1冊です。

講演は“立憲主義”とはなにか、から始められます。
──立憲主義とは、ごく簡単に言えば、過去に権力側がしでかした失敗を憲法で禁止することによって、過去の過ちを繰り返さないようにしよう、という原理のこ

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「独立国家」を0円で建てた男──日本を変える、支持率断然!の視座|『独立国家のつくりかた』(著:坂口恭平)

「独立国家」を0円で建てた男──日本を変える、支持率断然!の視座|『独立国家のつくりかた』(著:坂口恭平)



以前紹介した『現実脱出論』が坂口さんの“原理=闘争宣言”だとすれば、この本はそこにいたるまでの坂口さんの“活動報告書”といえるものだと思います。

さて、自らを初代新政府内閣総理大臣と任じる坂口さんの考える“独立国家”とはどのようなものでしょうか。芸術家の考える“夢想”というようなものではありません。

たとえば以下のような疑問に正面から答えようというのが坂口さんが作り上げようとする“独立国家

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【ヤバすぎる背景】日本の貧困問題・貧困事情はなぜ表面化しないのか?|『貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち』(著:藤田孝典)

【ヤバすぎる背景】日本の貧困問題・貧困事情はなぜ表面化しないのか?|『貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち』(著:藤田孝典)



総務省統計局のこのような統計数字があります。

労働力調査(基本集計) 平成28年(2016年)8月分 (2016年9月30日公表)
(1)就業者数,雇用者数
   就業者数は6465万人。前年同月に比べ86万人の増加。21安倍ヵ月連続の増加
   雇用者数は5722万人。前年同月に比べ83万人の増加。44ヵ月連続の増加
(2)完全失業者
   完全失業者数は212万人。前年同月に比べ13万人

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現自民党の本心はヤバい。安倍政権「反知性主義」で起こる悪影響まとめ|『偽りの保守・安倍晋三の正体』(著:岸井成格/佐高信)

現自民党の本心はヤバい。安倍政権「反知性主義」で起こる悪影響まとめ|『偽りの保守・安倍晋三の正体』(著:岸井成格/佐高信)



スキャンダラスというか時事的すぎるようにも思える書名ですが、中味は堂々たる保守論、自民党論です。

佐高さんによれば、かつては自民党には二つの大きな流れがありました。
──安倍の祖父の岸信介に始まって、福田赳夫、小泉純一郎、そして孫の安倍と続く国権派の流れがあり、それに対して、石橋湛山、池田勇人、田中角栄、河野洋平、加藤紘一とたどられる民権派の系譜がある。前者に中曽根康弘を加えてもいいが、国権

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西郷、信長、内蔵助、そして天皇。理想のリーダーから「日本国」を読み直す|『日本人の肖像』(著:葉室麟/矢部明洋)

西郷、信長、内蔵助、そして天皇。理想のリーダーから「日本国」を読み直す|『日本人の肖像』(著:葉室麟/矢部明洋)



歴史上の人物を論じる荻生徂徠の言葉に「いり豆をかじりつつ古今の英雄豪傑を罵倒するは人生最上の快事である」という有名なものがありますが、「罵倒」はさすがに徂徠ほどの学識がないと……とは思いますが、「歴史上の人物」は良きにつけ悪しきにつけ私たちの“鑑”ではあるのかもしれません。

この本は、壬申の乱後の「女帝の世紀」から明治の「西南戦争の西郷隆盛」まで10数人の歴史上の傑物を縦横に語った第一部、さ

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【あなたは大丈夫?】他人の苦しみに快感のサインが出る「モンスター脳」|『ゆがんだ正義感で他人を支配しようとする人』(著:梅谷薫)

【あなたは大丈夫?】他人の苦しみに快感のサインが出る「モンスター脳」|『ゆがんだ正義感で他人を支配しようとする人』(著:梅谷薫)



「こちらの行動に問題があるわけでもないのに、なぜか理不尽な攻撃を仕掛けてくる」、そんな危険な隣人が増えている……。ストーカーだけではありません。なかなか止むことのないハラスメント、モンスターペアレンツ、モンスタークレーマー……。身に覚えのないことで責められる、誤解を解くこともできず一方的な悪口・ウワサに悩まされる、一言いうと逆ギレされる、息苦しいことが増え安心できる場所がどんどん狭くなっていく

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【150年風俗史】明治からずっと、女子大生には「バカ」でいてほしかった!?|『百年前の私たち 雑書から見る男と女』(著:石原千秋)

【150年風俗史】明治からずっと、女子大生には「バカ」でいてほしかった!?|『百年前の私たち 雑書から見る男と女』(著:石原千秋)



2018年に明治維新150周年を迎えます。福沢諭吉は「一身にして二生を経るが如く一人にして両身あるが如し」(『文明論之概略』)と記しましたが、それにならってみれば近代日本はこの150年で三生も四生も経たように思います。

近代に憧れ“坂の上の雲”を追った時代、日清・日露の戦勝(後者は危ういものでしたが)を経て第一次世界大戦で大国となったのが1918年、ちょうど明治維新後50年にあたります。その

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超高齢化社会の模範解答──埼玉県は80%! PPKは3%! 何の数字か?|『超高齢社会の基礎知識』(著:鈴木隆雄)

超高齢化社会の模範解答──埼玉県は80%! PPKは3%! 何の数字か?|『超高齢社会の基礎知識』(著:鈴木隆雄)



少し前の9月21日アメリカ・ニューヨークで安倍首相は、金融関係者らを前に講演し、日本の高齢化や人口減少についてこう発言しました。

──重荷ではなくボーナスだ。(略)日本は高齢化しているかもしれません。人口が減少しているかもしれません。しかし、この現状が我々に改革のインセンティブを与えます。日本の人口動態は、逆説的ですが、重荷ではなくボーナスなのです。──

金融関係者を前にしての講演で、日本

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ドイツ、ユーゴ、中国人。世紀の大問題「ナショナリズム」の正体|『ナショナリズム入門』(著:植村和秀)

ドイツ、ユーゴ、中国人。世紀の大問題「ナショナリズム」の正体|『ナショナリズム入門』(著:植村和秀)



ナショナリズムほどやっかいなものはありません。植村さんによると日本語に翻訳するのもかなりやっかいなもののようです。

──おおまかに言って、国家主義、国民主権、民族主義、国粋主義などと訳せるように思います。しかし何か一つの日本語で、これらのイメージをすべてを代表させることはできません。そのように便利な日本語は、まだ発明されていない、ということです。作ると便利になりますが(略)。──

「争いの

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あなたはトランプを笑い飛ばせるか?──実は心に響く「放言集」|『ドナルド・トランプ、大いに語る』(編:セス・ミルスタイン 編・訳:講談社)

あなたはトランプを笑い飛ばせるか?──実は心に響く「放言集」|『ドナルド・トランプ、大いに語る』(編:セス・ミルスタイン 編・訳:講談社)



いよいよアメリカ大統領選挙も最後の山場、テレビ討論を迎えています。ケネディ対ニクソンでケネディに逆転勝利をもたらして以来、一躍注目されるようになったテレビ討論ですが、そこでは政治的主張のやり取りだけでなく、外見的インパクトも重要になっていることは否めません。ケネディが服装でニクソンに勝り、またテレビに不慣れなニクソンの困惑と(怪我の痛みによる)冷や汗が敗北に繋がったといわれています。またブッシ

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東北を外国人に売り渡して復興? 「経済成長」は誰得か考えてみた|『経済成長神話の終わり 減成長と日本の希望』(著:アンドリュー・J・サター 訳:中村起子)

東北を外国人に売り渡して復興? 「経済成長」は誰得か考えてみた|『経済成長神話の終わり 減成長と日本の希望』(著:アンドリュー・J・サター 訳:中村起子)



誰もが疑いもなく望んでいる“経済成長”というもの、これが達成できればすべてが解決できる、といわんばかりです。まるで“ジョーカー”のように変幻自在で万能のように思われているようです。

でもこれは確かなのでしょうか。成長を達成するとその“果実”として、貧困や格差の拡大が本当に解決するのでしょうか。あの名ばかりでまったく実現できない“トリクルダウン”、この嘘にまみれたものと同型のものをこの“成長神

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日本はベトナムに「ブラック国家」だと気づかれている!|『ルポ ニッポン絶望工場』(著:出井康博)

日本はベトナムに「ブラック国家」だと気づかれている!|『ルポ ニッポン絶望工場』(著:出井康博)



“絶望工場”とは何か? それは日本そのものを指しています。増加する海外からの来日者は観光客だけではありません。「留学生」や「実習生」、さらには「労働者」として滞在する人も増加しています。この本は海外から希望を持って日本へやってきた人たちがどのような“生活”を強いられているのか、そしてその結果、抱いていた“夢”が“絶望”へと変容させられていくさまを追いかけた力作ドキュメントです。

安倍政権が成

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月給100円、戦前はエグい格差社会! 「戦争歓迎」も納得の民衆史|『「月給百円」サラリーマン 戦前日本の「平和」な生活』(著:岩瀬彰)

月給100円、戦前はエグい格差社会! 「戦争歓迎」も納得の民衆史|『「月給百円」サラリーマン 戦前日本の「平和」な生活』(著:岩瀬彰)



“戦前”とはどのような時代だったのか……政治・経済・国際情勢など、いわば大文字とでもいえるような分析・研究は(立脚点の違い、視点の違いはありますが)数多くあります。この本はそのような大文字ではなく、小文字のビビッドな生活情景・環境を、それもサラリーマン生活を中心に描いた世相史、民衆史とも呼べるものだと思います。

この本をなによりユニークにしているのは岩瀬さんが、
──戦前社会を現在とまったく

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