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音楽3. 冬にわかれて 「彷徨い」

Apple Musicのおすすめにでてきたのだが、冬にわかれての新しいアルバムについてまったく知らずにいた。『タンデム』というもので、もちろんいつもの通り素晴らしいアルバムだと思った。しかし、その最後の「彷徨い」にいっそう心打たれるものがあった。

金星のよこをすっと、通り過ぎた人工衛星に、君は見惚れて動かなかった。

端的に美しい歌詞だなと思った。天上のものと、この世のものが、ここでは響きあっている。

というか、単にじぶんがこういったものに心惹かれるだけなのかもしれない。ほんとうのところ、こうした詩を一節耳にしただけで、もう十分に思える瞬間というものがある。創作というものが私たちのなかに創るものとはそういうものであろうし、またこうした瞬間こそが、永遠に記憶されるべきものであるのかもしれない。

「彷徨い」自体は、このあと、個人の恋心、憧れ、あるいは焦燥のようなものを描く。多くの歌に歌われているものだろう。ただ、それにもかかわらず、冒頭に現れた金星と、人工衛星の軌道が、いつまでも私たちを導いている。

きらめきながらも、しかし永遠に遠いものとして輝く金星のそばを、人工衛星が通り過ぎることの奇跡。こうした関係性が人間界にパラフレーズされていく。「君」の捉えがたさ、憧れがここに重なり合う。

私たちにはもはや、こうした象徴的なものは、ほとんど卑俗なものとして感じられるようになってしまったのかもしれない。天上を眺めたとしても、私たちは、私たちのことしか考えてはいまい。いや、この「彷徨い」さえもそういった象徴的なものを、人間のレベルに貶めているだけなのかもしれない。ただ、そうではないものがあるし、あるように思われてならないし、それを深い人間的な情感のなかに表現していることに、人間的なものの奇跡もまた現れているような気がするのである。




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