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【映画感想文】 吐き気がするほど美しい『Bones and All』を観てほしい 

ルカ・グァダニーノ監督とティモシー・シャラメの『君の名前で僕を呼んで』の再タッグならとりあえず観てみよう!と軽い気持ちで鑑賞し、3日分の食欲を失った人は世界中でどのくらいいるのだろう。


私は間違いなくその1人だったが、あまりにも衝撃的で数週間経っても記憶から離れないので文字にしてみる。*ネタバレなし


まず、話の中心がカニバリズム(人間が人間の肉を食べる行動)を描いているので、グロいのが少しでも苦手な人は絶対にお勧めしない。(私も正直ホラーやグロテスクな映画は見ない派だったが、この映画はとにかく終始画面から目が離せなかった。)

そして全体的にずっと血生臭く、見ていて息が詰まりそうなシーンがたくさんあるのに、観終わったすぐの感想として「ああ、美しい」だったのが自分でも不思議である。

舞台は1980年代の後半のアメリカ。人の肉を食べる衝動を抑えられない18歳の少女Marenが、実の母を探して旅に出る。

Sullyと名乗る謎の男や他の"Eater"たちとの出会い、母の秘密と自身の過去を知り、Marenは自分自身の存在と生き方に強く葛藤する。

そんな中で、孤独な青年Leeと次第に惹かれ合い、物語は終わらない2人の逃避行として続いていく。
愛や優しさを覚え、Marenは”人間”として生きていけるのか。

ーThe world of love wants no monsters in it. (この愛の世界に怪物はいらない)


内容からして決してハッピーな雰囲気は期待していなかったが、あまりにもホラー映画だったので最初の30分ほどでリタイアしかけるも、MarenがLeeと出会ったあたりから、一気に映画に引き込まれた。

まるで先が見えない、希望が見えない。あまりに過酷すぎる運命と現実。

でも2人が一緒にいるだけで、一瞬だけ世界が彼らだけのものに見えた。
彼らの望んだ世界に見えた。

あの美しい朝焼けは確かに彼らだけのものだった。

決して共感はできない。2人の気持ちを想像もできない。

なのに、どうしようもなく胸が張り裂けそうな気持ちにさせられるラスト。あまりにも辛くてやりきれない、"Bones and All"。

そこで、「ああ、やっぱり名監督Luca Guadagniroだったんだ」と気付かされる。
人の内側にある痛みや苦しみを繊細に、時には残酷にキャラクターや映画を通して描く。


Taylor Russellが演じたMarenの「まっすぐで可憐な孤独」
Timothée Chalametが演じたLeeの「殺された優しさ」
そして、Mark Rylanceが演じたSullyの「静かな狂気」

MarenもLeeもSullyも確かに存在していた。
そしてそこには必ず「愛の寂しさ」があった。



Lucaは『Bones and All』について以下のように述べていた。

"a very romantic story, about the impossibility of love and yet, the need for it. Even in extreme circumstances."
これはとてもロマンチックな、愛の不可能性と必要性についての話だ。それは、たとえどんな極限状態にあったとしても。

Marenはこれから先、愛があれば生きていけるのだろうか。それが、たとえどんな愛の形だったとしても。


ーYou Want To Be People? Let's Be People.


この映画を見た後、MarenとLeeに会いたくなる。2人を抱きしめたくなる。
人を喰べる”怪物”だったとしても、もう少しも怖いとは思わないだろう。

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