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サイバー衣装/メカヘッドの思いつき方・造り方 ①サイバーパンクの解説とオススメ作品

 士郎正宗の佃煮と押井守かけごはんを食べて育ち、サイバーパンクに触れて20ウン年、大学ではロボット工学を学び、LIVEinVITROとしてサイバーパンクマスクを作って早60個以上

そろそろサイバーパンク創作の解説をしても良いころだろうと思ったのでこれまでのノウハウを可能な限りまとめておこうと思います。

はじめに

 サイバーパンク2077の発売のおかげか、サイバーパンクという単語も昨今よく見かけるようになりました。士郎正宗の佃煮と押井守かけごはんを食べて育った身としては大変うれしいです。

 それもあって、サイバーパンク衣装やメカヘッド(メカやロボットっぽいフェイスヘルメットを被る行為の総称)を楽しむ人々も増えてきました。ところで、骨の髄までSFに漬かった人間以外にはサイバーパンクという単語も耳慣れませんしSFっぽい創作はなかなかとっつきにくいところがあると思います。

 本稿ではサイバーパンク衣装やメカヘッドといったSF的創作の作り方やそもそも思いつき方について解説していこうと思います。また作ったは良いけどもっと良い物が作りたいという方のためのステップアップのための方法も書いていきます。ただし、○○と▽▽を組み合わせて簡単メカヘッド!初心者にも簡単百均だけで作れる!!!みたいな内容は書く予定はないです。

テックウェアを着てガスマスクを被り、バイクのアーマーを塗装して身に着ける!やったーサイバーパンク衣装完成!!……それってテックウェアの上にバイクアーマーを着ただけの2021年の人では?そもそもSFですらないのでは?そこから更に一歩踏み込んだSF衣装の解説をしていくつもりです。

1サイバーパンクとは?そもそもSFとは?

 昔、SF創作やりたいです!ところでSFってなんですか?少し不思議の略?と聞かれてビックリしたことがあります。SFとはサイエンス・フィクションの略です。科学的工学的要素の強い空想(フィクション)だと思ってください。    ではサイバーパンクは?というと話が長くなります。

 1.1サイバーパンクとは

 ざっくりと無理やり定義づけするのであれば

ハードSFの内でも特に退廃的な世界を描き,構造・機構・体制に対する反発(いわゆるパンク)や反社会性などをメインコンテンツとするジャンル

※ハードSF:SFの中でも特に設定の科学的な厳密さを重視したもの

だと言えます。これだけでは意味がわかりません。

 幸いなことにwikipediaのサイバーパンクの記事が非常にわかりやすいです。さらに幸いなことにgame sparkがサイバーパンク2077発売前に投稿した解説記事が非常にわかりやすいです。

今更聞けないサイバーパンク─ネオンサインはなぜ怪しい日本語なのか?【ゲーミング自由研究】

絶対に読むべきだと思います。

 ここでも簡単に解説するとサイバーパンクとは1980年代に存在した漠然とした未来への不安が生み出したパンクジャンルです。記事中でも書かれていますが、それ以前のSFというとどちらかといえば明るい未来を描いた物が多かったです。ところが、1980年代でば環境破壊の兆しや終わらない冷戦、戦争で倒したはずの日本の急成長など(アメリカ目線では)これまで信じられていた明るい未来とは真逆の未来への不安も見え始めました。そこにコンピュータ(インターネット)やロボット(サイボーグ)技術の発展といった要素を加えた絶望的な発展を遂げた未来をなるべく現実的に描いた世界観のパンクSFジャンルです。つまり、メインとなるものは個人よりも世界や舞台背景に重きを置いています。世紀末やスチームパンクなどといった個人の衣装だけでも表現しやすいジャンルと違い、複数人で併せたりなどして世界観を構築しない限り表現するのが難しいジャンルと言えます。

例えば、スチームパンクでいうところの蒸気配管、バルブ、革細工、真鍮細工、歯車のような"これさえ抑えておけばサイバーパンクになる"といったコンテンツは少ないです。(ただ電脳やサイボーグを出すだけではハードSFなので)

 サイバーパンクは個人ではなく世界を描くジャンルであるからこそ自分はLIVEinVITROというサークルを通して大量にメカヘッドをばら撒いているわけです。

 1.2名前似てるけどスチームパンクと関係あるの?

ほとんどないです。 

スチームパンクとは蒸気機関技術が異常発展したヴィクトリア朝時代(19世紀後半から20世紀前半)を描いた歴史改変SF

と定義されます。つまり、石油燃料を使うエンジンが普及する前の時代に蒸気機関で動くいろいろな機械製品(車や飛行機、ロボットや蒸気コンピュータ)が出てくる世界です。

 スチームパンクというネーミングはスチームパンクが流行った時期にちょうど流行っていたサイバーパンクからもじって取ったネーミングとされています。

(※初期のスチームパンクはサイバーパンク作品のサイバー技術を蒸気技術に置き換えた蒸気版サイバーパンクを描いていますが、徐々に薄れ現在の様な蒸気と歯車がメインコンテンツの世界観に落ち着きました)

スチームパンクやディーゼルパンク、バイオパンクなどといった○○パンク系ジャンルが基本的に(異常発展した技術名)+パンクといった命名であるのに対して、サイバーパンクだけは唯一パンク要素を持ったハードSFという少し異なった立ち位置にあります。

2おすすめサイバーパンク作品

 文字だけで延々語ってもわかりにくいと思います。サクっとサイバーパンクを理解できる作品を紹介しますので、是非触れてみてください。

・ブレードランナー サイバーパンクの金字塔映画です。反乱したレプリカント(人造人間)を狩る刑事ブレードランナーの話です。酸性雨の降るネオンピカピカ日本語広告高層ビル街などのいわゆるサイバーパンクのビジュアルを決定づけた作品です。一転して主人公は普通の服、サイボーグも電脳も登場しない等シンプルなサイバーパンクと言えます。続編のブレードランナー2049もオススメです。

・攻殻機動隊 サイバーパンクの定番中の定番です。電脳、サイボーグ、反乱する情報生命体、権力の腐敗や暴力など基本的なサイバーパンクコンテンツが全て揃っています。映像作品が大量にありますがまずは攻殻機動隊SACの1話と2話を見ると良いです。SAC1期と2期、映画版と押井版2作品だけ観ればよいと思います。間違っても実写版とsac2045は観てはいけません。めっちゃつまらないです。僕は全部観ましたが。

・Va11 hall-A サイバーパンクバーテンダーアクションゲームという異色作品ですが非常に良質なサイバーパンク作品です。ドット絵で描かれたゲームのため視覚的な参考になるかは未知数ですが、サイバーパンクというものを理解するのにはうってつけです。あと単純に非常に面白いです。

・デウスエクス PS3で発売されたサイバーパンクFPSです。続編のデウスエクス:マンカインド・ディバイデッドはPS4で発売されました。サイボーグ技術が普及し始めた時代のサイボーグの葛藤を描いた作品です。力は強いが社会的には立場が弱く差別されるというサイボーグの歪な立ち位置が表現されています。ネオルネサンスを自称する黄金を基調とした非常に豪華できらびやかなデザインが特徴で、デザイン面で非常に参考になります。

・オルタードカーボン ネットフリックスオリジナルドラマシリーズです。人間の人格と記憶の完全なバックアップが可能になり、全ての人類が肉体をただの入れ物と認識した世界を描いています。多くのサイバーパンク作品がデジタルバックアップされた人格は本人なのかAIなのかという議論をする中で、本作品はデジタルバックアップは本人であると結論付けた後の世界を描いています。

・エリジウム 今ハリウッドでSFを撮らせたら一番上手いといわれるニール・ブロムカンプ監督の撮った映画です。格差社会や記憶窃盗などのオーソドックスなサイバーパンク作品です。特徴として、エリジウムではエクソスケルトン(パワーアシストスーツ)をメインコンテンツとしています。ブロムカンプ監督の作品は他の追随を許さない圧倒的なリアリティが特徴でエクソスーツやその他のガジェット等すべてが漏れなく参考になります。

・AKIRA これまた言わずとしれた名作サイバーパンク作品です。例のバイク赤い少年はアキラ君ではないです。

・サイバーパンク2077 サイバーパンクジャンルを全部煮詰めて混ぜ合わせたオープンワールドFPSです。あらゆるサイバーパンク要素をとにかく詰め合わせているのでプレイすればだいたいわかると思います。初期こそバグで話題になりましたが、現在はアップデートでまともに遊べるようになってます。

Cloud punk ブレードランナーによく似た世界観で空飛ぶ車にのって違法運び屋をやるゲームです。ドット絵を3Dで再現したマイクラっぽいデザインのゲームなのでデザイン面で参考になるかはわかりませんが、サイバーパンク世界の街並みを飛び回るというのが単純に楽しいのでオススメです。

・弐瓶勉の漫画 弐瓶勉の漫画は全て遠未来を描いているので厳密にはサイバーパンクではありませんが、退廃的な作風や複雑で特徴的なデザインや設定は絶対に参考になります。2021年10月からシドニアの騎士のアニメがプライムビデオで見放題ですし、ネトフリにはBlame!というデビュー作を元にしたアニメ映画が配信されています。個人的にはバイオメガとABARAがあまり長くなく絵柄も安定しているのでオススメです。

・PSYCHO-PASS 犯罪係数(その人が将来犯罪を起こす可能性を示す値)を元に実際に犯罪を起こしていなくても逮捕されてしまう世界を描いた作品です。同じ和製サイバーパンクの攻殻機動隊をかなり強く意識して、なるべく同じことをしないように意識して作られたらしいので是非見比べてみて欲しい作品です・

・電脳コイル NHKが本気を出したといわれる名作です。電脳眼鏡を手にした小学生が主人公という作品で、派手な服や街並み、暴力的な治安の悪さ等多くのサイバーパンク作品が用いる作風とはまるで違う作品になっています。ビジュアルではなく世界観だけで完璧に描かれた素晴らしい作品だと思います。

↓ちょっとわかりにくい気がしたので加筆します(2022.04.23~)

3サイバーパンクと普通のSFを比較してみよう

 退廃的なSF!つまり、治安が悪くてギラギラしたSFのことですね!!!というと、実はちょっと違います。実際、多くのサイバーパンク作品は治安が最悪な世界観を描いていますが、それそのものはサイバーパンクが故の副次効果だと言えます。
 どういうこと?というと、サイバーパンクの基本は"科学技術の発展によるデメリットを強調して描く"ということです。つまり

新しい技術が出る!(SF)

メリットもあるけど色々なデメリットがある

利益を優先して普及させちゃう

様々な問題が現れ退廃的な社会に…

新技術で不幸になる人を描く

サイバーパンク!

 このデメリットを強く描く、ということがサイバーパンクの根幹であると言えます。例えば現実の自動車(EVを除く)はどれだけ丁寧に運転しようと必ず排ガスを出して環境を汚します。これをSFで再現することがサイバーパンクをサイバーパンクたらしめる大きな要素だと思います。

3.1実際に比べてみよう

・機動戦士ガンダム(非サイバーパンク代表1)
 
ガンダムはジャンルで言えばリアルロボットですが、非常に深く設定を詰めたSF作品ですので大前提としてハードSFに属すると思います。戦時中という設定なので治安も最悪です。ではサイバーパンクかというと違うと思います。メインコンテンツであるモビルスーツ、ミノフスキー粒子、スペースコロニーという存在そのもののデメリットはあまり描かれません。MSは兵器なのでそれで不幸になる人は戦死者を含めて沢山でてきますが、MSのジェネレータは核融合炉なので環境に優しいですしミノフスキー粒子には健康被害はないようです。スペースコロニーも地球連邦政府の圧政さえなければ快適に住める空間です。

オデッセイ(火星の人)(非サイバーパンク代表2)
 火星に取り残されてしまった宇宙飛行士が脱出を目指す超ハードSFです。映画撮影にNASAが積極的に協力したおかげで、火星の風速、水を作る方法、火星での栽培など多くの要素が非常にリアルに描かれています。反面、登場する技術の多くが現実に則して設定されているためメリットもデメリットも現実に近いバランスとなっています。

・ブレードランナー(サイバーパンク代表1)
 人類に代わる労働力として人間そっくりのアンドロイド"レプリカント"が普及した世界を描いています。ところがレプリカントはあまりに人間に近いため製造後数年で感情を持ち自身の立場に疑問を持ち始めるというデメリットがあります。そこで、反抗的になる前に死んでもらうため4年の寿命に設定されています。しかし、早めに感情を得て人類に反抗する個体も現れます。主人公はそれを排除する"ブレードランナー"として働いています。作中では、反抗的なレプリカントに殺害される人、感情を得た途端目前に迫る寿命の限界に苦悩するレプリカント、感情を得た存在を消すことに苦悩するブレードランナー等、レプリカントという社会構造そのもののデメリットを受ける人が多数描かれています。

・攻殻機動隊(サイバーパンク代表2)
 身体の積極的な機械化によって、全身サイボーグと電脳が爆発的に普及した世界を描きます。極限までのサイボーグ化は人体と機械の境目を曖昧にし、記憶と人格の積極的な数値化と外部化は感情や記憶と記録の違いを曖昧にしました。更に電脳犯罪によって、交通事故よりも高い確率で記憶改ざんが起きています。サイボーグ化と電脳化という大きなメリットを受けつつもこれらのデメリットを深く考えずに普及させてしまった世界、というのが攻殻の基本です。実際、作中では自身を生物だと主張するAIを論破できない、自分が今見ている光景が仮想現実なのか現実なのかわからない自分の脳を見たことがないので本当に自分は人間なのか疑う全身サイボーグ、妻と子供の記憶を植え付けられ操り人形にされる、孤児の意識をロボットに移植して愛玩ロボットにするなど様々な弊害やそれを元にした犯罪が描かれています。肉体的にも精神的にも人間という存在が技術によって曖昧になった、というのが攻殻の作風です。

・電脳コイル(サイバーパンク代表3)
 電脳眼鏡というARゴーグルが普及した世界を描く作品です。電脳眼鏡の普及によってインターネットが身近になった結果、小学生がいたずら感覚で電脳犯罪に手を染めるというのがメインテーマです。いたずらの延長だった電脳犯罪と、面白半分の都市伝説研究が実際に企業の陰謀の痕跡にたどり着いてしまいます。ここで重要なことは、電脳コイルは主人公が小学生で街並みの現在とほとんど変わらないということです。絵面だけで比較するとSF作品全体でもかなり地味な部類に入りますが、電脳という要素を深く掘り下げることによって非常に完成度の高いサイバーパンク作品になっています。

・サイバーパンク2077(サイバーパンク代表4)
 2077は先述したようにサイバーパンクの闇鍋作品なので、上記のような技術の発展によるデメリットのほとんどが描かれています。特に強く描かれているのは、電脳化によって二人の人格が一人の身体に入った状態の描写、過剰な身体の機械化による貧富の差が直接暴力になって表れているところだと思います。

もちろん例外もありますが、新しい技術によって企業や社会は潤ってるけど貧富の差は広がって犠牲になった人も沢山いるよ~というのをSFっぽく描くとサイバーパンクらしさが増すと思います。

まとめ

 サイバーパンクというジャンルの概要がなんとなくわかって頂けたかなと思います。最近、サイバーパンク衣装ではなくパンクを省いてサイバー衣装と呼称されがちなのも、パンク要素を省いてSFとして表現した方がわかりやすいからだと思います。

 次回はサイバー衣装、メカヘッドの思いつき方ということでより詳細になにを参考にすべきか、情報収集にオススメのサービスは何かなどについて解説します。


ちなみに、全部すっ飛ばしてメカヘッドの作り方が知りたいという方は僕の描いたマスク作製本を買っていただけると一番速いです。よろしくお願いします。ただし、これには顔面以外の作り方は書いてません。

LiV流 Fusion360でマスクを作る本

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