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シンガポールで感じた日本の将来

2泊3日でシンガポールに行って来ました。前回来たのはいつだったかとパスポートをめくると2018年1月だったので4年半ぶりということになります。
今回思った以上に衝撃を受けた自分がいるので感想を書き留めておこうと思います。自分は経済の専門家ではないですし受けた衝撃を大げさに受け止めている部分もあり、ともすれば暴論と思われるかもしれませんが、あくまで個人の感想として御笑覧ください。

物価の高さ

これは今回一番顕著に感じた点です。僕は2012年にシンガポールのNational University of Singaporeの経営大学院に留学していて、その時はアベノミクス前夜の超円高時代。1シンガポールドル=65円というレベルで、学費はじめ生活費を円建てで準備していた身としては本当に助かりました。
なお参考までに2012年の学費は52,000シンガポールドル。今どうなっているのかと確認したら84,000シンガポールドルに値上がりしていました。現在は円安で1シンガポールドル=約100円なので円建てでの学費は2012年で3,380,000円、2022年現在は8,400,000円と倍以上になっています。ハッキリ言って今だったら奨学金もらわないととても払えないレベルで、10年遅く生まれていたら留学を諦めていた可能性は結構高いです。
今回懐かしさもあってちょっと立ち寄ってみましたが、学生寮のあるUTownというエリアはまさにひとつの街で、最初に来たときは驚愕しましたし、久しぶりに来ると僕がいた頃より更に各種施設が充実していました。

UTownの中。背の高いビル二棟が自分も住んでいたドミトリー。
左側はスタバ併設で24時間アクセス可能な学習室。
更に裏側にも大型食堂やミニスーパー、スポーツ施設など至れり尽くせり。

この他にもすべてが高いのがシンガポール。今日タイに帰る前に会った駐在員の友達とのブランチを例に挙げると、入ったのはRobertson Quayというシンガポールでもトップクラスに高いエリアで客層は富裕層の外国人ばかりというお店。頼んだのはアイスコーヒーとスモークサーモンのトーストで、日本だと港区や丸の内のお洒落カフェで食べて1000円~高くて1500円とかでしょうか。

スモークサーモンのトーストとアイスコーヒー。普通に美味しかったです。

今回支払った金額はコーヒー9ドル、トースト21ドル、合わせて30ドル=3000円でした。日本の倍です。ちなみにタイのバンコク中心地なら300~400バーツ(1バーツ=3.8円で1140円~1520円)あたりと思います。もちろんここは最高値のクラスなのでもっとリーズナブルな食事もできますが、ホーカーセンターと呼ばれる庶民的な食堂でも麺類やチキンライス5ドルからという感じで、2012年に留学していた頃が3ドル~4ドルくらいだったことを思い出すとやはり上がっています。しかも超円安。日本で食べる牛丼やうどんより安いものはシンガポールには無いかもしれません。

そして家賃。最近は家族帯同者向けの物件は2ベッドで7000ドル程度だそうで、このベース価格から数年に一度大きく家賃が上がるとなると潤沢な手当をもらっているイメージの強い駐在員でも会社が負担しきれなくなり、一部自腹を切ったりとか住めないので転出してダウングレードを余儀なくされるようになっているそうです。帯同の家族も優雅な駐在生活というのは昔話で、日々の生活用品の買い物もかなり気を遣うとか。
更に子供の学費も半端じゃないとか色々ありますが、この国の物価高に関する細かい情報は「シンガポール 移住」とか「シンガポール 物価」とかでググったほうが正確かつタイムリーな数字が出ると思うのでここらで止めておきます。

日系企業と日本そのもののプレゼンスの低下

「シンガポールで日系企業の人気が下がっている」というのは昔から少しずつ言われていました。JD(ジョブディスクリプション)に記載の無い業務は基本やらないという欧米の常識とは異なる「その職位なら何でもやれ」な文化、一定以上の職位はすべて日本人駐在員が占めてキャリアパスが頭打ちするという「ガラスの天井」問題、そしてどんなにパフォーマンスを上げてもそれに見合った給与をもらえないことが不満だという話で、5年くらい前からタイにいてもよく聞くようになり「そりゃそうだな」くらいに思っていたのですが、今となっては優秀なシンガポーリアンにとって日系企業で働くのは「本当に勘弁して」というレベルになっているとのことでした。今日ブランチをした友達いわく、彼のいる会社の日本人以外のローカルスタッフはシンガポーリアンは一部のみで、ほとんどが東南アジアの別の国から来た人だということです。かといって制度をドラスティックに変えることができるかというと、しがらみの無く物事を決めることができる経営者が率いるスタートアップなどであれば別ですが、特に大手の日系企業が大きな変革をするには少なくともいち海外法人トップの権限では相当難しいと推察します(決して個々の企業や現法トップが悪いとかではなく組織構造の問題)。

今回僕がNUS留学時に仲良くなった当時学部生(なので6歳くらい下)のシンガポーリアンの友達とも会いましたが、彼は日本語が読み書きもできるレベルで卒業後日系の大手広告代理店に入ったものの、2年足らずで辞めてその後は大手ITを渡り歩き33歳の現在は月収で11,000ドル+ボーナスだそうです。大手ITの会社名を聞いてみるとさもありなんという感じですが、日系のシンガポール進出企業でローカル中堅スタッフにその水準の給与を出せるところはなかなかいないのではないでしょうか。
正直言って留学していた当時はシンガポールが日本を上に見ているという優越感を感じられるシーンが結構ありましたが、今や完全に逆転しています。

日本は、日本人はどうなる?

今回シンガポールの発展を感じる度、日本の地位の相対的な低下を実感せずにはいられませんでした。
僕のいるタイにおける日本人の実質的な経済力はというと、ステイし続ける本国での給与水準、上がり続けるタイの物価、更に円安も重なって下がる一方です。ただそれでも日本人は裕福だという一般的なイメージはまだありますし、元々の経済格差が大きいため、少なくとも駐在員の立場で生活に困るということはよほどの事情がない限り今は起こらないはずです。
しかしこれはスピードが緩やかなだけであり、シンガポールは本当に稀有な存在としても東南アジア諸国をはじめ我々が中進国、ともすれば後進国とみなしていたどの国も着実に経済は成長していきます。その一方で成長が止まってしまった日本との差はどんどん縮んでいき、その上円安が更に進行すれば、極端な話日本人にとって海外旅行というのが一部のお金持ちに限定された道楽になっても不思議ではありません。

また経済がシュリンクする国へ投資する外資系企業は多くないでしょう。成長可能性がありそうな観光産業では外資系あるいは一部の日系資本が運営する国際標準価格のホテル&リゾートや飲食店、商業施設のお客は外国人、働くのは日本人、ただし日本人はそれらの店には行けずにローカルの安い飲食店で日々集うという今東南アジアで当たり前にある光景が現実になるかもしれません。

僕が従事する製造業に関して言えば生産を国内に回帰し安くモノを作って輸出すれば外貨を調達でき、その為替差益で国内で繁栄するというチャンスはありそうです。ただ自動車はEV化というパラダイムシフトを迎えている今、日系メーカーがこれからも世界の中でシェアを維持できるかは誰にもわかりませんし、僕の会社のメインである家電に関して言えば最終セットメーカーは工場を海外に移転してしまったケースが多く、パーツ単体の輸出となると相当なマーケティングが必要なため中小企業には簡単ではありません。

とにかく円安がこのまま進んでしまうといくら円で稼いでも海外と比較して相対的な価値が下がってしまうため、賢い人は最初から海外で外貨を稼ぐ方向にシフトし、優秀な人材はどんどん国外に流出してしまいます。

日系企業の海外展開も変わってくるでしょう。駐在員を置いてローカル社員を統括するという既存の手法は徐々にコストだけでなくローカルスタッフの成長によって合わなくなっていきそうです。海外経験や経営スキル、語学力に乏しい部長さんクラスが来てこれまでのようにローカル社員が言うことを聞いてくれるかというと、ジャパンブランドの神通力が効く今ならまだしもそれが落ちれば落ちるほど難しくなるのではないでしょうか。また日本人駐在員よりもローカル社員の給与レベルが高くなるという現象はアメリカなどでは起こり始めているようです。
ただローカライズは決して悪いことではなくむしろ多くの日系企業が目指すところですので、良い意味でローカライズのきっかけになるというポジティブな側面は期待できます。

「稼ぐ力」を身に着ける

今回シンガポールで起業しているNUSの先輩日本人経営者とも会ったのですが、この人は本当に切れ者で失敗もしつつそこから得た学びを糧に最近急成長しており、将来の大きなビジョンまで聞く機会を得られました。僕の勝手な印象ですがこの先輩に限らずシンガポールで起業している人は目線が世界を向いていることが多く、目指している具体像は誰もが知っているようなユニコーン企業で規模も桁が違うため、タイと日本で細々とやっている自分は圧倒されっぱなしでした。
その先輩から「そっちはどう?」と振られた時に自分がやってますと言えるのはブラックだった社内構造の変革という点しかなく、厳しい事業環境に対する明確な打ち手というのはせっかく会社ビジョンを策定したにも関わらず胸を張って語れませんでした。すると「組織づくりも良いけど結局は業績を上げて皆に沢山払ってあげるのが経営者の一番の役割やない?」と本質をズバッと突かれてそれこそ何も言えなくなってしまい、もっと「稼ぐ力」を身につけなければいけないと身に沁みました。

終わりに

このnoteを読んでくれる方はツイッター繋がりがほとんどだと思いますが、その中でも特に後継者仲間は僕と同じように会社のしがらみに悩まされることが多く組織の変革をとにかくやらねばと奮闘していることが多いのではないでしょうか。自分も今これに相当なエネルギーを注いでいますが、正直言ってこの先輩のような事業の成長に対する大きな野心は欠けていたと言っていいです。
中小製造業の悲願である自社オリジナル製品の開発も最近始めましたが、「これを世の中に売り出せば間違いなく成長できる」というような絶対的なものを作ろうという強い志というより、「違うことをやっていることを見せたい」という広報的な役割のものでいいやと自分の中で目標を低く設定してしまっていました。

自社オリジナル製品に限った話ではないですが、親の跡をどうせ継ぐならでっかい野望と稼ぐ力を蓄えて世界に誇れるものを送り出せたら。幸い後継者は(ネガティブなものも含め)リソースを抱えた状態で社長になれるので、そのリソースを使って自分のやりたいことをやって大きな夢を追っていけたら。そしてその先に日本だけでなく海外での展開も見い出せたら。

日本全体の凋落を止めることはできなくても世界の中で幸せを感じられる日本人が少しでも増えるんじゃないかと思います。

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