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博識なやきそば


都合がいい、私はほんとに都合がいい。

1度付いた習慣は簡単には取れないし、身体の執着は思った以上に簡単って話。

大好きだった人と別れて、ふらふらしてて出会った人。真面目なフリしたマッチングアプリの中で、鼻ほじった写真使ってた変な人。もじゃもじゃの焼きそば。初めて会う人種だった、不思議な雰囲気に完全に飲まれてしまった。映画を見て、1杯くらい飲んで帰ろうと思ってた。あんたがヤリモクなのは会う前から知ってたから。

なのに気付いたらそこにいて、「いい匂い」なんてわざとらしくクンクンするあんたに「首にも付けてるの」なんて餌撒いちゃった。気付いたら唇が重なって、気付いたら・・・って話。

その日の別れ際「また連絡します」なんて言葉、微塵も信じてなかったから、翌日本当に連絡が来たときはちょっと嬉しかった。

2回目、同じ場所、同じ流れ。向き合うような体勢の中で私のお腹が鳴った。かなり大きく。これまで真剣な顔して向き合ってたのが嘘みたいに繋がったまま笑い合った。「お腹鳴っちゃった」「ごめんね俺ムードとかそういうの苦手で」「ごめんごめんw」「このあとなんか食べる?」「食べたい」「何がいい?」「んー、ラーメン。」「いいね」「事後ラーってやつ?」「なにそれ知らない(笑)この話はまたあとでね」そう言ってキスから再開した。すごく美味しいラーメンだった。

免許合宿の終わりかけに連絡が来た。「つまらなくて耐えきれない」と。帰ってきて会った日のあんたの勢いはいつもの3倍だった。

キングオブコントの日も連絡が来た。私もあいつもお笑いが好きで、バイト先のテレビでチラチラ見ながら私を思い出しちゃったとのこと。

酔った勢いで気付いたら「あいたいなあ」なんて送ってしまってた日もあった。

夏には3回ほど会って、夏が終わっても月に1回ペースで会ってた。泊まる日もあれば、泊まらない日もある。生理でも一夜を過ごしてくれたときもあった。イチャイチャするだけで、焦らされて、それだけの日だった。泊まるのはいつも決まったビジホ。ラブホはあんまり好きじゃないのはとっても賛成だったし、ホテルに荷物を置いて、まず周りで夜ご飯を食べるのも、ホテルで缶を空けるのも、翌朝喫茶店でモーニングとコーヒーを一緒に楽しんでくれるのも、すごく好きな時間だった。あんたと話したことはなんだったかよく覚えてない話とは違くて、不思議と興味の沸くことばかりだった。たぶん目立ちたがり屋が転じた寂しがりで、人のことが好きなんだろうね、だから人の細かいことを覚えてる。私には見えない視点からのお話。私のこともよく覚えてた。他に何人もいたくせに。

彼氏が出来た。

焼きそばから誘いが来た。彼氏が出来たことは言わなかった。最初と同じ場所、その日は泊まらなかった。終わりに「飯、食うよね?」と当たり前のように言ってくれるの好きだった。お気に入りの定食屋に連れてってくれた。美味しかった。私の振袖の前撮りが見たいと言って、見せたとき、「いいねえ」って何度も言ったおじさん焼きそば。

年末だったから「良いお年を」「また来年ね」「連絡してね」「そっちこそ」なんて言って別れた。

年明け、会いたくて連絡してみた。

「ごめん、俺今彼女いるから会えないや」

「全然嫌いになったわけじゃないし会いたいんだけどね」

「お互いフリーのときによろ😉」

素直で猫みたいな文章に殴られた気持ちだった。そりゃあそうだし、それを言ったら私だって、なんてことは言わずに。

会いたかったなあって。またねって言うけど、ほんとに会ってくれるのかいな、そのまま結婚すんじゃねえぞ。

いつだったか、「また会える?」「会えるよ」「絶対?」なんて珍しくかわいこぶって聞いたのに「絶対なんてないんだよ」って冷たいトーンで言い放たれた。そんときの声が忘れられないし、言い放っておきながら胸筋で殺されるくらい強く抱き締められたのも、いつもいつも訳が分からなくなるくらいだったのも、そんなこと思い出して、あんたに彼女が本当に居るのかどうかは知らんけど、私にもう飽きたのを隠してくれたのかも知らんけど、私もあんたの彼女になってみたかったなと思うの。

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