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小心者の君へ


お久しぶりです。元気にしてる?よね、きっと。

届くはずもないんだけど、まだいつか一言だけでも交わせると信じている私を供養するために。


7月、君と別れた。私のことが大好きだった君に「もう好きじゃない」って言われたあの時の心臓がキュッと冷えていく感覚、今もまだ覚えてます。もうすぐ訪れる夏、君と何をしようか、どこに行こうか、そんな期待に胸を膨らませていた私が割れた瞬間。

君に合わせた方向へ歩きながら最後の話を進める私、その時点でもう結論なんて決まっていたも同然で。君にとってもう私は〝つまらない〟に尽きたんだろうね。


前日、君に「私のこと好き?」なんて聞いたときから正直諦めの気持ちはあった。

「今電話出来る?」の返信で全てを察した。

電話口、何も気付いていないフリをして「どうしたの?」って

君は震えた声で「別れたい」ってハッキリ言った

心臓が潰れそうだった、息が出来なくて、目が回って、呼吸が下手になった

今までにない暑さに目頭が到達して、涙が止まらなくて、「なんで」としか言葉を紡げなかった

しばらく君は「ごめん」を繰り返すだけだった

「理由が知りたい」と震えながら言った私に君は、私に割ける時間がこれからの自分にないこと、まだ好きだけどこの状態で付き合い続けるのは辛いということを言った。本当に自分勝手だった。「せめて同じ学校だったら」なんて一言には、ほんとふざけるなと言いたかった。そんなこと、初めから分かってたことだと思ってた。

会って話そうという私の言葉を全然受け入れてくれなかった。会ったら気持ちが揺らいじゃう、そんなことを言って。

何度も会いたいと伝えた。何度も私は別れたくないと伝えた。話し合いの余地はあるはずだった。

それでも会おうとしてくれない君に、「あなたが会いたいって言って会って、好きって彼女になってって言って、こんなに好きにさせといて、こんな電話で終わり?初めから友達じゃないから、別れたらもう会う理由なんてないんだよ?そんなに自分勝手なのに、私のわがままも聞いてくれないの?」と初めて込み上げた怒りを露に伝えると、ようやく「わかった。明日バイト終わりに行く。」と言った。

その日は生きた心地がしなかった。眠る気も起きなかった。それでも次の日はバイトで、眠らなきゃという意識だけあって。母のワインを拝借して1人で7割ほど飲んだ。もちろん二日酔いで、昨日なのか今日なのか明日なのか分からないような状態で出勤した。

朧気な認識の中でも、君に思いとどまってもらうために、あの日私が出せる最大の〝かわいい〟を身に纏った。今思うと死装束のような白いワンピース。女の子らしいのが君の好みだったから。夏、これを着て君とデートするのが楽しみだったから。

出勤してしまうと案外すぐに時間が過ぎた。バイト先の最寄りに君が来た。

「お疲れ様。」とふわっと微笑んで言った君に腹が立った。こんな風に会いに来てくれるなら、いつもそうしてほしかった。

「10時半には電車に乗るね」と宣戦布告した君

「わかった」とそれに応えた

「一晩考えたけど、やっぱり分からない。」と話の本題を突きつけた。まだ冷静に話せると思った。ここでもっと感情的に可愛く、別れたくない(;_;)とか言って泣いてたら良かったのかな。や、そんなことできないのが私なんだよね。

たくさん話した。妥協策があるはずだと、たくさん提案した。それでも君は一切頷かなかった。私は昨夜、君が言った「まだ好きだけど」の一言をまだ信じてた。

平行線を辿る話に、とどめを刺させたのは私だった。

「もう私のこと好きじゃないならそう言って。私のこと傷付けたくなくて〝まだ好き〟って言ったなら、そのほうが苦しい。」

だなんて、どっかの映画の丸パクリみたいなセリフを言った。

そういうときの返す言葉は決まってる。

「もうあの時みたいに〇〇のこと、好きじゃなくなった。」

昨日の電話口と似た震えた声でゆっくりと、でもハッキリと君はそう言った。迷いがあるようで、でもその言葉にはもう私が入り込む隙はなかった。

そのときの君の目もちゃんと見ていた。大桟橋で私に告白してきた君を、一瞬たりとも逃すまいと見つめたあの時と同じように、ちゃんと見ていた。

私はその言葉を噛み締めて、その後に何を話したかはもうほとんど覚えてない。心臓が一気に冷えていた。この人はもう戻らない、どこかへ行ってしまった人なんだとハッキリわかった。

「そろそろ行かなきゃ」と言い、駅に向かう

「私ね、私のことが大好きな君のことが大好きだった。私の全部の初めては君が良かった。」

仕返しのように言い放ってしまった。私の〝初めて〟が全部君じゃなかったことは、君が1番気にしてることだと分かってた。案の定、君の目が泳いだ。傷付けてしまったと思った。それでも言いたかった。本当に君が良かった。全力で愛してくれようとした、ポーズだけだったかもしれないけど、涙が出るほどこれまでの自分のだらしなさを後悔して、全て無かったにしたいと、本気で自分を呪った。寝ている君の中でこっそり泣いてたの、こんな幸せが来るって知ってたら、あんなことしなかったって。こんな言い方をしてしまったけど、愛のある行為をしたのは君が紛れもなく〝初めて〟だった。


最後の交差点、「最低なこと言うかもしれないんだけど、昨日〝もう会えない〟って言ってたよね。俺、それは嫌で。だから、もし良ければ友達になって欲しい。今日はそれを言いたくて来た。」と君が言った。

本当に最低だと思った。ずるくてずるくて、自分勝手で仕方がなない、「ずるい」そう口にした瞬間、その日彼の前で初めて涙が出た。「そんなこと言ったら、私が離れられなくなるのわかって言ってるんでしょ?」強がりが効かなくなってきた。君は泣きそうな顔をしながら頷いた。頷いてんじゃねえ、と頬を叩きたくなるようなことは一切なくて、「最後にハグして」と涙声で言った。

どうしようもなく好きだった。初めてあった日はまだ鮮明に思い出せるし、どんな瞬間を思い出しても全部好きって気持ちで埋まってた。まだまだ好きでいたかった。行きたいところが沢山あった。手を繋いで、腕を組んで、肩を組んで、君の服を着て、コートを交換して。寒いのに全然帰らずに、ずーっとキスをしてたかった。人が通っても恥ずかしげもなく、終電をずっと惜しんでいたかった。痛い恋愛だった。でも、間違いなくそれまでの人生で1番幸せで輝いた時間だった。

〝最後に〟と確かに自分で言った。強く強く抱きしめて、君に突き放されるまで抱きしめていた。君から離れて、大きな声でハッキリと「大好き」と言って笑った。たぶん、エクスクラメーションマークが幾つか付くくらい。君は「ごめん」と。

別れの挨拶が、じゃあねだったかバイバイだったかまたねだったかは覚えてない。ただ私は可愛くなくて、帰ってゆく君の背を追いかけなかったし振り返らなかった。君が見えなくなるように急いで適当な角を曲がった。



君と別れて3ヶ月後、私をバンジーに誘ってくれた人が私を好きだと言った。彼の気持ちは少し前から分かってた。3回目のデートだった。君のことは、どうせ一生忘れられないんだから降参して、先に進んでしまおうと思ったの。2人にごめんと思いながら「こんな私でよければよろしくお願いします」って返したよ。今、私は幸せだと思う。彼はクリスマスも成人式も20歳の誕生日も、全部全力でお祝いしてくれた。これでもかってくらい思いつく限りを尽くして。

彼にはごめんと思ってる。君の20歳の誕生日がどうしても祝いたくて、君に連絡してしまったこと。無視してくれてありがとう。嫌味じゃなくて、ほんとに。エゴを押し付けて本当にごめん、おめでとうって気持ちだけ、それだけ最後に伝えたかったの。あのLINEは君が見たかどうか確認せずにトークルームごと削除した。

君と付き合った日のちょうど1年後、彼と横浜に行っちゃったんだ。大学生の春休みは長いから、日付の感覚なんて忘れてて、その日がそれだってことに気付いたときはなんとも言えない気持ちになった。彼とは、君が行ってくれなかった中華街に行ったし、アイススケートも一緒に滑った。たぶん君はアイススケートが苦手だから、カッコ悪いとこ見せたくなくて行ってくれなかったんだろうけど、4歳年上の彼、思いっきり頭から転んでたからね。腹抱えるくらい笑ったし、それで良かったんだよって言ってやりたい。横浜出身の君とするより遥かに横浜らしいデートをしたの。観覧車にも乗って、そこでキスしちゃったりなんかして。あの日とほとんど同じ色の夕方の空と赤レンガだったと思うんだけど、夜はあの日より絶対に寒かった。横浜、あんなに寒いのに、なんであんなに長いこと一緒に居られたんだろうねウケる

私の〝幸せ〟を君がまだいるアカウントでたくさん見せてきたのはお察しの通り嫌がらせです。他のアカウントは消したのにあのアカウントだけ消さない君。ねえ、私を捨てたんだったら、私より可愛くて、物分りが良くて、家族と仲がいい子を早く見つけなよ。私が知らないところで幸せになって死んでいってよ。私と幸せになっていく勇気も度量もなかった小心者、でもね大好きだった。ありがとう、ごめんね。元気でいてね。


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