害虫退治と生殺与奪

【アイルランド留学171日目】

今ダブリンで住んでいるところは、中心地から少し離れた郊外の住宅街です。のんびりした空気が流れています。

ただ、田舎あるあるなのかもしれませんが、窓を開けていると、必ず虫が室内に入ってきます。アメンボみたいな足の長いやつです。静かに飛びますが、見た目が「the 虫」って感じで気持ち悪いやつですね。わかりますでしょうか。笑

特に、共同スペースのキッチンとかによく侵入してきます。庭に面している窓をよく開けているからです。

この時に、みんな「うえ〜」みたいになって逃げ惑っていくので、だいたい私がその虫に対処する係になっています。なんとも言えない貧乏くじです。しかし、誰かがやらねばならないので仕方ありません。

もちろんいい気分はしませんが、意外と冷静に対処できています。フラットメイトからも「よくビビらずに退治できるね」と少し驚かれましたが、たぶん大学生のころの経験が生きているんだなぁとふと思い出しました。

----

上京して一人暮らしの部屋に、はじめてGが出た時のことです。アメンボみたいなやつよりも格段に嫌悪感と恐怖が強い、まさしく最強の害虫の登場です。

玄関を開けた瞬間に、そいつと目が合い、一瞬静止したのちに、そっとそのままドアを閉めました。(ついにこの時がきたか。。)と心の中で呟いたのを覚えています。

もう一度恐る恐るドアを開けてみると、そこにはもう彼の姿はありませんでした。そのまま部屋の中に入っていっても、見つけられませんでした。

何これ怖すぎる、というのが率直な感想です。

密閉された部屋の中で、あの害虫の姿を見失うことの恐怖はご想像いただけると思います。そのまま何事もなかったように過ごしたとして、もし夜中に枕元に現れたら、、、とか考えるともう膝の震えが止まりません。

これからどうすればいいんだ、と言うどうしようもない絶望感に襲われ、焦りと不安から動機がどんどん上がっていきました。

もうこれは引っ越すしかないのか、という最終手段にも程があるところまで思考が飛躍しましたが、そこであることに気づきました。

冷静に考えたらこっち(人間側)の方が圧倒的に有利だな」

そうなのです。

人間サイドからしたら、Gは気持ち悪くて不愉快ですが、特に毒を持っているわけでもないので、まぁ無害といえば無害なんですよね。そして、こちらは相手を殺傷するための武器も腕力も知能も兼ね備えています。「殺すか、否か」の二択が取れるということです。

一方、Gサイドからしたら、できることは逃げ回ることか、せいぜい飛行して人間をびっくりさせるくらいです。人間に物理的にダメージを与える手段はもっていません。つまり、「殺されるか、否か」の選択肢しかもっていないことになります。

何もしなくても自分が殺されるリスクの無い人間に対して、命を保つためには一生逃げ続けなければならないGは、もはや同じ土俵で勝負している相手同士ではありません。シンプルに、駆逐する側とされる側の関係性です。人間側が恐怖を感じる道理は全くありません。

その気づきに至ってから、妙に冷静になり、再びGが目の前に現れた際には、チラシの束で淡々と息の根を止めました。これが、自分の中で、ひとつの大きな壁を超えた瞬間だったのかもしれません。

----

そんなことを思い出しながら、フラットメイトの言葉に対して、

「Because I can kill them, but they can't kill me(僕はこいつらを殺せるけど、こいつらは僕を殺せないからね)」

とジョークっぽく答えましたが、「なにこいつキモい」みたいな目で見られました。

少しだけGの気持ちがわかった気がしました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?