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フムス 前篇

出会いは2015年の3月、青山だった
ピンクのフムスはコッペパンに挟まっていた
当時新卒2年目の何も知らないおぼこい女だったのでその派手な見た目の東京の食べ物に少なからず不安な気持ちを抱いたのを鮮明に憶えている
わたしが知っているピンクの食べ物といえば桜でんぶと苺チョコだけだった
自然界において派手な色は危険を表す
つまりこれはもしかして噂に聞くパーティードラッグ…?
これって何?甘いですか?そんなことを聞くのも田舎者丸出しのようで恥ずかしく、かと言って譲れない問題として生たまねぎNGだったのでツナ・ポテトサラダと並ぶ中で消去法でフムスを選んだ
派手な見た目とは裏腹に青山の路上で口にしたファーストフムスは優しい味だった
フーム…これがフムスね…
見た目で判断していたことへの申し訳なさからか、フムスが結局何だったかを深く追求することはなかった
東京で暮らしていればまたいつか会うこともあるだろう
だって東京にはなんでもあるんだから
少しの不安と希望と共にフムスサンドを腹に収めたのであった

予感を裏切るようにフムスとの再開はないまま時は過ぎた
都会での生活にも慣れ、ドラッグはNO!と断るのも板についてきたある日、ふと、フムスとはなんだったのかと
あの鮮やかなピンクは?なぜあれ以降わたしの前に現れないのかと

「フムス 何」

やはりドラッグの類であったかと震える手で検索したわたしの眼前に衝撃の結果が表示される

なんとも優しい、薄黄色のマッシュポテトの友達のような顔をしたわたしの知らないフムスがそこにはいた

これがフムス…?
信じられない思いでページをスクロールする
フムスとは中東の豆料理…豆!?!?
調べれば調べるほどフムスとは豆であった
オリーブオイル、塩、ねりごま、ニンニク…すぐにでも再現できそうな材料
自作できる、わたしの心は踊った、すぐにひよこ豆とねりごまをネットで注文し週末を待った

ついに迎えた週末
結論から言うとフムス作りは成功した
のかどうかわからなかった
好みの味の何かはできたが正解をすでに忘れていたのである
あの時食べたフムスはアボカドと一緒にパンに挟まっており、手がかりは写真のみであった
しかしまあおいしい
この先中東に行くこともない自分はこれをフムスとして一生暮らしていこうと心に決め、ことあるごとに豆を戻し、ミキサーにかけ、フムス(仮)としたのであった
〜第一章 完〜



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