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川でギター弾いてたらおじいちゃん来た

だるくて眠くてテンションが低い日。

このまま夜がきたらもっとテンションが下がってめんどくさいモンスターが爆誕しそうだったので、ギターを持って外に出ました。

太陽の光が眩しすぎてもっとだるくなりました。

すれ違う人たちは楽しそうでもっともっとだるくなりました。

爽やかにジョギングしている人の間を通り、整備された階段を下り、刈って少し伸び始めた雑草を踏み歩き、橋の下を覗きました。

ここにはいつも誰かしらいるのですが、その日は誰もいませんでした。

川を前に座り、ギターを抱えました。

ーーー

橋の影になって少し肌寒く、向こう岸にも人がいない静かな空間でした。

そこは神社の鳥居をくぐった先みたいな空気で、飛行機で雲を下に見るときみたいな感覚がしました。
現実からログアウトして異空間に身体を置いているような感じです。

チューニングするために弦を1本弾くと、背中の荷物が1個、空に飛んでいきました。

指を慣らすために適当に鳴らしていると、背中の荷物がまた1個、飛んでいきました。

次第に深く息を吸えるようになって、湿った土や草、川の匂いがわかるようになりました。

楽しいと思い始めたそのとき、後ろから声がしました。

「こんにちは。」

振り返るとにこにこ笑顔のおじいちゃんが立っていました。

ーーー

「ギターいいねぇ。」
と、おじいちゃん。

「ギターやってるんですか?」
と、私。

「昔はやってたけどもう今はできないなぁ。」
と、おじいちゃん。

そんなこんなで10分くらい話していました。

二十歳のときに上京したこと、
親は戦争経験あり厳しかったこと、
孫が6人、ひ孫が3人いること、
今まで病気をしたことがないこと、
今度数年ぶりにお祭りがあること、

いろんな話を聞かせてくれました。

私の話を「そうかそうか。」と笑顔で聞いてくれました。

音楽はいいよ、音楽はいいよと、噛み締めるように何度も言っていました。

「ひとりぼっちじゃないよ。」と言っているような気がしました。

ーーー

私「どこまで行くんですか?」

おじいちゃん「ここ真っ直ぐ行って大きい道路を越えてお寺の近くまでだよ。そこが家だからね。」

私「良い運動になりますね。」

おじいちゃん「そうなんだよ。それじゃあ、そろそろ行こうかな。あなたも気をつけて帰ってね。」

橋の影から出て行くおじいちゃんの後ろ姿をただ見ていました。

見送ったあと、日が傾いて私も影から出ていることに気がつきました。

あんなにだるかった日差しを「あたたかい」と感じ、なんとも思わなかった川がキラキラして見えて「綺麗だな」と思いました。

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