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生物と工芸のあいだにあるもの

【PHENOTYPE-01 /今西 泰赳】
〜「生命の動的平衡」への畏怖と畏敬


1. 工芸王国・石川県に暮らして

金沢に住んで早8年が経った。

若い頃からアート好きだったがこの地に来て、工芸に接する機会がグッと増えた。

それは金沢で出会った友人たち(作家・ギャラリー経営者が多い)のおかげである。

人間国宝の数で云えばじつは京都より石川のほうがもともと多い。

昨年、「国立工芸館」も東京から金沢に移転してきた。

“革新”は「伝統の継承」と「異なるモノ・コトとの出会い」から生まれる。

今後、「工芸王国・石川県」のさらなる発展が楽しみである。

2. 進化・深化する工芸の未来

さて、「工芸」と一口に云っても九谷焼や山中漆器に代表される「伝統工芸」から、限りなくアートに近い「現代工芸」や「クラフト」まで、ほんとうに多様性がある。

金属・木材・陶器・紙・織物・ガラスなどの「素材」。

漆・沈金・螺鈿などの各地域の「伝統的技法」。

さらに現代の「先端技術」と「デザイン性」。

これらが組み合わさって、じつに「工芸」の間口は広いし奥行きも深い。

たとえば、金沢21世紀美術館の前館長であられた秋元雄史 氏(東京藝術大学大学美術館館長・教授)が提唱する「工芸未来派」。 

まさに工芸とアートの融合、その進化と深化を目指すものでいま、国内外で高い注目を集めている。

3. 今西泰赳『PHENOTYPE-01』との出会い

美術館やギャラリー巡りをしていると、ふと作品の前で足が止まることがある。

そして長く眺めているうちに、いろいろの感情が湧きおこり、そしていつまでも心に残る作品となる。

近年では「KUTANism(クタニズム) -産地の総合芸術祭-』で出会った、陶芸家今西 泰赳氏の『PHENOTYPE-01』。

あの時、まさにそうだった。

なお「PHENOTYPE(表現型)』とは、分子生物学の学術用語で「生物のもつ遺伝子型が形質として現れたもの』を指す。


4. 言葉を探すことからはじめるアート鑑賞

アートでも工芸でも私の場合、作品への接し方はまず、沸き起こる感情や捉えどころのない感覚を落ち着かせる「言葉を探す」ことからはじめる。

そして、『PHENOTYPE-01』。

「ああ、なるほどなあ!」

作品の造形美に魅せられたのは勿論、とくにその「作品タイトル」がことのほか、ストンと腑に落ちたのだった。

そしてその後、今西さんとは自然につながり、じっくり話をする機会を得てビックリした。

「ああ、やっぱり!」

あの時“作品タイトルが腑に落ちた”のは至極、当然のことだったのだ。

なぜなら、陶芸家になる前に今西氏は筑波大で分子生物学博士号を修められ、ミトコンドリアDNAを専門に研究されていたのだから。。

5. 福岡伸一 著『生物と無生物のあいだ』

話は少し飛ぶけれど金沢に来る前、福岡伸一 著『生物と無生物のあいだ』を読んだ。

あの時もいろいろの感情が湧きおこり、それはいまも心に残っている。

そもそも生命とは何か?  

そして生命の“動的平衡”とは? 

PHENOTYPE(表現型)と云う学術用語も、あの本で識ったように思う。


「生命という名の動的な平衡は、それ自体、いずれの瞬間でも危ういまでのバランスをとりつつ、同時に時間軸の上を一方向にたどりながら折りたたまれている。」
(同著  エピローグより抜粋)

6. 陶芸創作における動的平衡とは?                                                             

今西さんは創作中、いったいどのような心と態度で、陶芸素材の“動的な平衡”と向き合っているのだろう?

そして、成形〜素焼〜下絵〜釉薬掛け〜本焼の各工程において、どのような技法で、作品にあらたな“生命”を吹き込んでいるのだろう?

ますます、私の興味と好奇心は深まるばかりである。

近いうちに氏の工房を訪ねてみたいと考えている。