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【教育】『兎の眼』を読んでの感想

『兎の眼』(灰谷健次郎)は、教員志望の人にはぜひ一度読んでもらいたい作品である。私も大学の教授に進められて読んだが、考えさせられる作品だった。

1.あらすじ

新卒の教師・小谷芙美先生が受け持ったのは、学校で一言も口をきかない一年生の鉄三。心を開かない鉄三に打ちのめされる小谷先生だが、周囲とのふれ合いの中で次第に彼の豊かな可能性に気付いていく。(Amazon.comより引用)

2.感想

物語の時代背景は、第二次世界大戦後の高度経済成長期である。社会の秩序が不十分であり、差別や公害などの問題が顕著な時代ともいえる。問題にしっかりと向き合わなければならない時代の物語だからこそ、今当たり前だとしている感覚を一度捨て、改めて自分の考えを見つめなおすきっかけとなった。

小谷先生は様々な悩みや苦しみを乗り越え、子どもたちに歩み寄ることの大切さに気づいていく。子どもたちのために奮闘する小谷先生の姿を見て、思わず応援したくなったのと同時に、自分が教師となったときの不安を感じた。子どもに歩み寄るにあたって、子どもの話を聴くことが大切だということは、耳にたこができるほど聞かされてきたが、今回その大切さの本質を考えさせられた。残念ながら、今の学校教育ではバクじいさんらと食事をしたり、クズ屋をしたり、タコ焼きをおごったりした小谷先生や足立先生のようなことはできない。現代において、できることを最大限やってもなお、物語のように子どもを深く理解することは難しい。だからこそ、できることは最大限やらなければならないのだと感じた。

灰谷健次郎が言うように、今の教師が職業と化しているのだと、物語と現実を比べることでひしひしと伝わってきた。物語の中では、実際の授業実践が描かれていた。特に、足立先生の並んだ蟹について考える授業と、小谷先生の大きな荷物を運んでいる様子を描く授業が印象深かった。どちらの授業も、物事を一方向から見るのではなく、多面的・多角的に見ることを大事にしている。鉄三やみな子などの不可解な行動に、子どもたちがしっかりと向き合えたのは、このようなことを大切にしている小谷先生や足立先生の努力のたまものだと考えた。まさに、現代の教育に求められていることであり、機会があれば将来これらの授業を実際に取り入れてみようと考えた。

作中で最も印象に残ったのは、「効果があればやる、効果がなければやらないという考え方は合理主義と言えるでしょうが、(中略)人生をこの子どもたちなりに喜びをもって、充実して生きていくことが大切なのです。」という文章である。私は教育において、どんな方法が効果的か、それに根拠はあるのかなどを気にしていた。しかし、第一は子どもたちが充実した人生を送ることができるようにサポートすることであると気づかされた。

この物語のタイトルは、「兎の眼」である。小谷先生が、善財童子という仏像の眼のことを兎の眼と呼んでいたため、どのような仏像なのかを調べてみた。確かに、人間の眼というよりも先入観や雑念のない動物の目に見えた。足立先生が言っていた、「タカラモノ」がこの物語の中核となっており、それに気づいてあげられるようになるには兎の眼のような視線を忘れてはいけないという作者のメッセージを感じた。灰谷健次郎は、他にも学校に関する本を書いていると知った。


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