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Q.保障するべき学力って何なん?(読書記録『学力格差を克服する』)

今回の「何なん」は学力。
公教育は、どんな家庭の子にも、時代の荒波を自分で乗り切る力を授け、そのまたさらに次代につなげていく役割があると勝手に思っている。
そうすると、最低限公教育で保障すべき(身につけさせるべき)学力は何なん?
そのために公教育ができること・すべきことは何なん?
前回の「自尊感情」も登場します。

学力格差の実態

ペアレントクラシー
 近代以前:アリストクラシー(身分と家柄が人生を決定)
  ↓ 学校教育制度の構築
 近代以降:メリトクラシー(能力と努力で人生を切り拓く)
  ↓ 格差社会化の進行で変質
 これから?:ペアレントクラシー(親の富と願望で子どもの将来が左右される)
  ex.家庭の違いで、努力できる子・できない子の違いが生まれる

学力低下の実態は、学力格差の拡大である。
基礎的な問題の正答率の得点分布が二こぶ化し、
「できる層」と「できない層」の分極化が進行している。
・できる層:家庭の文化的背景が中・上位の子が占めがち。積極的に「教育を選ぶ層」
・できない層:下位の子が占めがち。消極的に「教育を受ける層」

学力保障の考え方

学力保障=すべての子どもが持つ、確かな学力を獲得する権利を実現させること。
複雑な家庭環境で適切な自尊感情を育めず低学力に陥る等、
環境的要因でポテンシャルを十分に開花させることができない人がいる。
それを、教育・学校の力でなんとかしようという考え。
これにより、『学力格差を克服する』

側面① しんどい層(下位層)の学力水準を下支え
    (基礎学力獲得・進路保障)。
側面② すべての子ども(中・上位層含む)の非認知能力・人間性を涵養
    (おかしいことはおかしいと言える、
     周囲と確かなコミュニケーションを築ける、
     身のまわりの社会をより良くしようとする志向性や
     行動力を備える。)。

学力の捉え方

学力の要素
<知識+態度・意思>
・知識をどのくらい獲得したか
・知識を自己の生活とのかかわりでどれだけ血肉化しているか
・知識をもとに自己や周囲の人々の生活をよくしていこうという態度や意思

<学んだ力>
A学力 知識・技能
B学力 思考力・判断力・表現力
<学ぶ力>
C学力 学びに向かう力・人間性

・A学力とB学力の獲得には、C学力が備わっているかが決定的に重要。
・A学力とB学力をどう生かすかは、C学力の中身次第。
⇒C学力が第一義的に重要

C学力の要素

①自尊感情
 モチベーションを取り戻すには、自尊感情を回復し、
 「自分もやればできる」
 「自分はコツコツ頑張れるし、頑張ったらそこそこのことを成し遂げられる」
 という感覚を、成功体験(できた・わかった・ほめられた)によって手に入れさせる。
⇔失敗体験(できない・わからない・けなされた)は無力感をもたらす。
②学習習慣
 学習習慣を形成できていない子どもは多い。
 よい学習習慣を持つと、勉強が徐々にわかるようになり、学習意欲を高めることができる。
③目的意識
 なんのために勉強するのか。
 学ぶことの意味・意義が腑に落ちていなければ、努力し続けることは難しい。

+よりよい社会をつくるという志向性を備えているとき、真の学力となる。

C学力の育成

 第一義的には、学校外の場(家庭や地域)で育まれる。
 十分に育まれず学齢期を迎えたなら、学校・学級での集団生活全般のなかで、「学び合い」等を通して育んでいく。
 学校外での生活と学校での生活との連続性や関係性を考慮することも必要

⇒子どもを取り巻く人間関係が、学力形成に積極的な役割を果たす。


 ・周囲からの保護的働きかけや愛情・承認が、自尊感情を形成する。
 ・学習習慣や目的意識も、家族・先生・同年代の者・その他地域で出会う人との相互作用の中での経験が蓄積され、形成される。
 ・豊かな人間関係のもと育つことができる子どもは、育った社会に貢献する気持ち(志向性)を持つ。




学力格差の基本

経済資本・文化資本・社会関係資本の格差(入口の格差・機会の不平等)が、
健康格差・意欲格差を媒介し、
学力格差・進学格差・学歴格差(出口の格差・結果の不平等)を招く。
結果の不平等が機会の不平等を導き、格差が連鎖していく。

学力格差は、「集団間での平均点の違い」(集団差)である。
公正の観点で「是正する必要がある」とみなされる場合に、
集団差は学力格差として問題視される

学力格差は早期に形成される。
初期に獲得された学力は、次の段階の学力と強い相関関係にある。
早期に形成された格差は、学年の上昇とともに拡大する。

●学力の地域間格差 ~つながり格差仮説~
 伝統的なつながりが維持されている地方の子どもたちの学力水準は概して高くなる一方、都市化が進み、そのひずみやゆがみが相対的に顕著である自治体で、学力に課題が見られるようになる。
 (要素の例:離婚率・持ち家率・不登校率)

●学力の学校間格差
 公私格差だけでなく、公立学校間でも「できる」「できない」に二極化している。
 原因:校区にどのような家庭があつまっているか

●学力の階層間格差
 家庭の社会経済的背景(SES)※と子どもの点数にははっきりとした相関関係がある。
 SESが高いほど、学力中位層からの下降は生じにくい。
 他方、SESが低くても、学力下位・中位層からの上昇のチャンスはある。
※家庭所得・父親学歴・母親学歴を合成した指標

学力格差をいかに克服するか

 経済資本・文化資本・社会関係資本の三者は、ほぼ同じ強さで、しかも統計的には独立して、子どもの学力を大きく規定している。
 経済資本や文化資本が十分ではなくとも、社会関係資本が豊かな環境のものとにあれば、子どもの学力は下支えされやすい。
 さらに、経済的にきびしい家庭の子どもほど、社会関係資本の恩恵を受けやすい。

●効果のある学校
 教育的に不利な環境のもとにある子どもたちの基礎学力の下支えに成功している学校=効果のある学校
①学力保障の根幹には、「集団づくり」がある。
 集団づくりがうまくいけば、授業時に「わからない時にわからない」と率直に言える学習集団が成立。これが、基礎学力保障の前提になる。
②家庭での学習習慣
 長い時間宿題を行うことを提唱。着実な学習習慣の形成が、基礎学力の獲得に大きな役割を果たす。
③少人数指導等弾力的指導体制
 習熟度別にクラスを分ける。習熟度別指導は自尊感情や仲間関係に負の影響を与えかねないため、集団づくりが機能していることが重要。
④テストで個人の学習のつまずきを把握
⑤学習内容の定着を図る補充学習
⑥動機づけをはかる総合学習の推進

 参加体験型の活動や地域の大人への聞き取り活動を実施。周囲の人々とのかかわりのなかで自分自身を見つめ直し、学ぶことの意味を問い返す。勉強が得意ではない子どもたちの教科学習へのモチベーションをひきだすことに役立つ。

●すべての子どもをエンパワーする「力のある学校」
①気持ちのそろった教職員集団
②戦略的で柔軟な学校運営
③豊かなつながりを生み出す生徒指導
④すべての子どもの学びを支える学習指導
⑤ともに育つ地域・校種間連携
⑥双方向的な家庭とのかかわり
⑦安心して学べる学習環境
⑧前向きで活動的な学校文化

●力のある教育委員会
①平均点だけを問題にせず、上位層を増加させ、下位層をゼロにすることを打ち出す。
②C学力を見える化(学テの質問紙の具体的項目と対応させ、数値化して把握)

 ⇒自校の弱点や不十分なところを克服するための方策を具体的に考えられるようになる。
③市教委の構想を全校実施するため、担当者会議を定期開催し、ミドルリーダーの意識向上と取組み活性化を図る。
④多額の予算を計上し、課題のある学校には傾斜的に予算配分する。

目指すべき公教育の前提の社会

格差は、「是正する必要がある」とみなされて初めて問題視される。
学力格差の課題は、どんな社会を構想するかという問いと密接不可分。

リバタリアン対コミュニタリアン
 個人の自由(私有財産) 対 共通善(個人間に共通する、「善き生」)

 リバタリアンと、それに親和的な新自由主義の課題
   「選択と自己責任」を旨とし、「小さな政府」を標榜。
   「教育を選ぶ層」にとっては好都合だが、「教育を受ける層」の
  実質的な教育機会の削減をもたらしかねない。
   ややこしい奴は隔離してしまえばいいという排除型社会が進行

 コミュニタリアンの課題
   過度の同調が強要されたり、諸個人の個性が抑圧されたり、
  あるいは「よそ者」が排除されたりする危険性。

アミタリアンというアイデア
 リバタリアンとコミュニタリアンのバランスをとることが大事。
 新しいあり方「アミタリアン」
 自分がかかわる一人ひとりの個性や気持ちを大事にしながら、地域や家庭が持つ伝統や縦のつながりもおろそかにせず、人間関係を着実に築いていける人。そのネットワークは、それを構成する諸個人にとっての物質的・精神的なセーフティーネットになる。
 公教育が担うべきは、アミタリアンの育成である。

学校の4つの夢

①能力主義の夢
 アリストクラシーからメリトクラシーへ。
「である(be)社会」から「できる(can)社会」へ
学力や学歴が人の値打ちを決める社会。

②平等主義の夢
 誰でも十分な教育の機会を与えられれば、自己の能力を開花させ、成功への階段を上っていくことができる。
 生まれた環境の格差に影響されることなく諸個人が幸福追求の権利を平等に享受できる。

③統合主義の夢
 国民の統合、諸階級や諸民族の融和が、学校を通して実現される。

④民主主義の夢
 民主主義の担い手として子どもを育てる。

メリトクラシーの再考

 学校は、学習内容を変えようと、学習方法を変えようと、「できる」「できない」という原理で子どもたちが処遇される場所。
 属性原理(be)ではなく、業績原理(can)が機能する。
 様々な資本を所有する人たち(持てる者は成功しやすく、そうでない人たち(持たざる者は成功しにくい
 個人の上昇志向とは無関係の、「持てる」家族が成功するペアレントクラシーの世界。
←アリストクラシーの時代とほぼ変わらない。

 アリストクラシーに戻らないためにメリトクラシーは必要。
 一方で、ペアレントクラシーにならないためには、能力主義ばかり肥大化させず、平等主義・統合主義・民主主義の夢を取り戻さなければならない

目指すべき公教育

①メリトクラシーの荒波を泳ぎ抜くための「たしかな学力」を備えさせる。
 ⇒集団づくりの実践を基盤に、子どもたちの能力をできるかぎり開花させ、努力が正当に評価される仕組みを保障する。
②過度のメリトクラシーの弊害をただし、よりよい社会を仲間とともにつくっていこうとする志向性=「豊かな社会性」を持つ人間を育てる。
 自立した個人が連帯する。自分で考え、動くことができる自立した個人は、他者からの愛情をうけ十分に依存したうえでやがて自立していった者。
 C学力とも密接に関連。
 公教育の最大の特徴は多様性。様々な人が集う。
 学校は、オープンにアクセスでき、共通の経験や活動を組織する場・機会を提供する機能を果たす。そのなかで生きていくうえで必要な学力や社会性を育んでいく。

6つの具体的方策の提案

①高校までの無償の普通教育の保障
 高卒でないと安定した職に就くことが非常に困難。
 高校を卒業しないことは大きな社会的スティグマとなる可能性が高い。
②早期の分化の抑制とリカレントルートの整備
 分化=個人の特性や能力・希望による制度的・組織的分岐
 早期の分化は下位に位置づけられた子どものモチベーションを著しく下げる。
 分化は必要だが、タイミングは早すぎないほうが良い。
 教育は一回勝負であってはならず、必要に応じて、適宜再教育を受けられるようなシステムづくりが望まれる。
③教育による評価・配分の機能の縮小
 教育成果を数値化し、その結果に基づきリソースを配分する新自由主義的政策は転換すべき。
④授業を学校外の社会生活に結びつける
 抽象度があがると、文化資本に恵まれた層は学習に成功しやすくそうでない子どもは勉強がしんどくなる。実生活に結びつけることで、モチベーションを向上させる。
⑤教育活動をできるかぎり集団的・協働的なものとする
 学習は個々の頭の中で生じ、成績等のリターンも個人に返されがちである。この構造では、階層的再生産が繰り返される。
 社会性は人と交わる経験を積むことによってしか獲得し得ない。
⑥「できる」ことと「ある」ことを等しく大切にする
 「できる子」がえらく「できない子」はダメで切り捨てられても仕方がないというのではなく、人権が重んじられる価値風土を学校の中に実現する。
 「競争」と「共生」のバランスを保つ。

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