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映画『湯を沸かすほどの熱い愛』

ティッシュの用意なしに観始めてしまったものだから、私の目からとめどなく流れ出る涙を拭いきれず、来ていたピンクのTシャツは濃いピンクに様変わりし、机の上に広げてあったノートの新しいページはしわくちゃになり、フリクションで書かれた文字は消えて読めない。

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宮沢りえの長女・杉咲花ちゃんが高校でいじめに遭っている。それを知りながら母親・宮沢りえは絶対に学校を休ませない。ある日花ちゃんが制服を盗まれ今日こそはと猛烈に登校拒否を試みる。

「私は立ち向かう勇気なんてないの。最下層の人間だから。お母ちゃんとは違うの!」

そうだそうだ。宮沢りえが末期がんの診断を受けながらもこんなにも力強く生きていくのは宮沢りえの持って生まれたバイタリティじゃないか!余命宣告を受けながらも「少しの延命のために自分の生きる意味を見失うのは絶対いや」なんていえる強さをもった宮沢りえ。そんな母親をいつも目の当たりにしながら、わたしは頑張っても悔しくてもそんな風にはなれないの!お母ちゃんには弱い私の気持ちが分からないの!って思ってしまう花ちゃんの気持ちわかるな。

「何にも変わらないよ。お母ちゃんと安澄(杉咲花)は」

しかし、後半で明らかになるが、宮沢りえも最初から強い人間だったわけではないのかもしれない。生きていく中で強くならざるをえなかっただけかもしれない。この二人は血のつながった親子ではなかったし、宮沢りえだって花ちゃんと同じで母親に捨てられた子どもだったのだ。

花ちゃん、いやいや学校にいく。教室で宮沢りえがプレゼントしてくれたブラジャーを身に着けていじめに立ち向かう花ちゃん。彼氏の前で脱ぐときだけじゃない。自分に自信をつけて一歩を踏み出さないといけない時のためにつかわれたブラジャー。

ここでいじめに立ち向かえた花ちゃんを見て、(映画だしな)って思ってしまったけど違った。

「お母ちゃんの遺伝子ちょっとだけあった」

よかった。これを‘‘努力‘‘とか‘‘勇気‘‘とかで済まさないでくれて観ててよかった。弱い子だった花ちゃんがある日突然勇気のだせる子になってたらつじつまが合わないもの。

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また違った独特の遺伝子をもった鮎子。鮎子が玄関から出てきて、オダギリに

「旅行行くんだ!」

って報告してくるシーンが私の中ではワンナオブザベストシーンだった。かわいい。嬉しいから誰かに言いたいんだよね。

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ところかわって松坂桃李。

「あなたの腐った時間に付き合ってると思うと反吐が出る」

こんなストレートな悪口を、先ほどであった青年に面と向かって言えない。でも宮沢りえは言えるんだな。

そして煙草を片手に虚空を見つめる松坂桃李。どこを目指してるわけでもなくただ彷徨ってる感がこの一場面でとてもよく表現されてたし、二回目みるとラブホテルから逃げ出した話をしながら目をきょろきょろさせていたことに気づくけど、嘘をついてる伏線演技だったんだね。細かい。

「あの人から生まれた君たちがうらやましいよ」

どちらもあの人から生まれてなかったけれども、宮沢りえという母親を身近においているだけで人間が強くなっていくのは本当。だって血を吐きながら!も娘二人との旅行を続ける人だもの。わたしだったら絶対旅行取りやめる。ごめんね、お母さんちょっと体力がさ…ってなっちゃう。体調悪い時って余裕のよの字もなくなって周りへの配慮とかほんとできなくなっちゃうからここでの宮沢りえは驚異的精神力の持ち主ですよ。

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そして酒巻君江さんと花ちゃん。家族構成がどどんと覆される。そして『なぜ ビンタ』と全米がググったこのシーン。「全部話してくる」ってガンのことじゃなかったんだと全米が展開に裏切られた。この君江さんとの対話のために手話を勉強させられていた花ちゃん。どんな思いでこの日を待ち準備したのか。花ちゃんの演技にも感服。

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酒巻さんと宮沢りえの母親のギャップよ。酒巻さんに愛される花ちゃんと、生みの親に存在を消される宮沢りえ。

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この映画におけるオダギリの役割はなんなんだろうと考えてみる。19歳の時に聴覚障がい者の君江と結婚をし、君江にでていかれる。残されたオダギリと花ちゃん。そして宮沢りえと出会い、宮沢りえと花ちゃんを残してまたでていく。新たなパートナーキャバ嬢にほだされ鮎子と暮らすオダギリ。優しさをあちこちに蒔いているふらふらの放蕩息子。お見舞いにはなんでいかないのか。弱体化する妻が見られないのか。しきりにほしいものが何か聞いてくる。結局は体育会系男子みたいな単純さで妻と向き合う。憎めない感じで書かれてるけど、宮沢りえはオダギリのどこに惚れたのだろうか。ゆるさなのだろうか。

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ヒョヌは、この監督は「是枝裕和になりたいけど、感動が押しつけがましくて傲慢で全然なれてないよ。嫌いなタイプだよ」と言っていた。わたしは映画評論に詳しくないからその辺のコメントの意図はわからんけれども、この映画、他の感想とかを読んでもどうやら男の人にはいまいち受けない模様。

わたしはとてもよかったけどね。なんたって宮沢りえと杉咲花ちゃんの演技が迫真だもの。







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