旧朝香宮邸(庭園美術館)
部屋の調度品をデザインしたカードがおみやげ、というのにつられて、庭園美術館で開催された展覧会『開館40周年記念 旧朝香宮邸を読み解く A to Z』に行ってきました。オタクにとって紙ものがもらえる、というのはとても興味をひかれます。
「H: HUE IN THE AIR(空気の色)」「O:ONE OF A KIND(一点ものの)」など、アルファベットにちなむタイトルのついたカードがポイントごとに置かれていて、ひとつずつ集めていくとAからZまで揃います。カードの置き場所も規則的じゃないので、探す楽しみもありました。そのうちの1枚が受付の外にあって、最初に取り忘れたので戻ったりも。
別館のほうに穴あけ器も用意されていて、カードをリングやリボンで束ねることもできます。竹尾見本帖本店の展示でも思いましたが、自分で紙を集めて束ねてまとめるの、製本済みのものを渡されるより楽しいんですよね。
旧朝香宮邸について
普段は美術館として使われている建物の、建物自体を展示物とした展覧会です。絵や彫刻などの展示物がない状態で建物を見学できるので(しかも写真も撮らせてもらえる)、これは今行くしかないなと思いました。年に1回くらい、こういう催しが開かれているそうです。
旧朝香宮邸は、1933年(昭和8)に完成した、皇族の朝香宮家の邸宅です。戦後、外務大臣・首相公邸や迎賓館などとして使われたのち、1981年に東京都に売却され、現在「東京都庭園美術館」として一般公開されています。
当時流行のアール・デコ様式をふんだんにとりいれた結晶のような建物です。部屋ごとにテーマが変わり、大量生産と工業化の新時代に対応したアール・デコといいつつ、デザインの雛形はめちゃくちゃたくさん用意されている感じでした。壁紙がデザイナー本人の手描きだったりするんですよ。当時のデザイナーさんたちが、ノリノリでつくってくれた雰囲気を感じました。
ラリックデザイン
わたしはルネ・ラリックがとても好きなんですが、出だしの玄関の扉からすでにラリックデザインで圧倒されます。
ガラス製だけあってやっぱり割れることもあるらしく、一部はレプリカに置き換えられているそうですが、それでも貴重な美術品を本来の場所(入り口なのでさすがに内側よりはダメージ受けますよね…)に置いて、建物本来の姿で迎えてくれるのは、ありがたいことです。もしかしたらこの状態で見れるの、今のうちしかないかもしれない。
部屋ごとに違うデザイン
部屋ごとに壁も床も違うデザインで、照明も全部屋違うものが取り付けられています。
網状のデザイン
特徴的だなと思ったのがラジエーターカバーで、これもいろいろなデザインが用意されていました。部屋ごとに違うくらいの勢いです。網とかネットとかレースとか、たしかにデザインし甲斐がありますよね。
青海波に千鳥や、源氏香もあったりして、この邸宅のデザインソースが洋だけではないことがわかります。
このほか通気口や排水口など、網状にするところはすべて、何らかのデザインが施されています。穴があいてそうなところに注目して見ていくと、宝探しのようにどんどん新しいデザインが見つかります。
この館の空気も水も、精巧にデザインされた模様の間を通り抜けていくんだなあと思います。
この建物のデザインで、わたしが一番心惹かれたのが、妃殿下自ら下絵を描いてデザインしたラジエーターカバーでした。
旧朝香宮邸は、朝香宮夫妻がフランス長期滞在中にアール・デコ展覧会を見学し、感銘を受けたことがきっかけで、このようなデザインになったそうです。
好きなもので埋め尽くしたい!という気持ちが溢れている邸宅なのですが、残念なことに、妃殿下は建物が完成してから半年も経たない間に、この世を去ってしまうことになります。
ひとつひとつのお部屋は意外とこじんまりとしているのですが、とても居心地がよく、ここにいたいなあ、という気持ちになります。それはそのまま、完成した建物に足を踏み入れたときの気持ちなのかなあと思いました。
レトロな部品
ドアノブやレバー、水道管などの部品も、ほぼそのまま残されていました。こういう部品のデザインは、建物全体でひと揃えになっているようです。
浮き彫りのロゴってどうしてときめくんでしょうね。印刷するかわりに凹凸で印を入れた、というだけなのに。
この時代の洋館には、だいたい和館と日本式庭園もセットでつくられています。駅から歩いてくると、古墳でもあるのかというくらいこんもりした山が見えてくるのですが、それがこの庭園だと思います。
雨の日でお客さんが少なかったので、気になるところに戻ったり、ベランダでのんびりしたりと、ゆっくり見学できました。建物の中にいるとき、住んでるひとの気持ちを呼んでみる、という遊びをよくやるんですけど、人少ないと入り込めてよかったです。
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