作品と機材について。

 noteを始めたきっかけとして、この話題について文章に書き起こして他の人と意見を交換したいという思いがありました。

 写真はスマートフォンというデバイス、SNSという新たなプラットフォームに組み込まれて間口が広くなりました。「写す」ということはより日常に、「見せる」ということはより身近になったと言えます。しかし、あまりにもSNSが生活に侵入してきてしまい、SNS上で「見せる」ための、言い換えれば「いいねをもらう」ための写真が多く見られることとなりました。

「いいねをもらう」ための写真は、本当に良いものなのでしょうか?

 私が写真を始めたのは10年ほど前、20歳ごろに美術館である1つの写真作品を見たことがきっかけでした。全然写真なんて興味もなく、むしろ絵画や音楽などに比べて劣っているものだと当時は考えてましたが、展示されていた作家のシリーズのある特定の1枚の写真を目にした瞬間にそんな考えは吹き飛び、目が惹きつけられて離せなくなりました。私が知っていた写真にありがちな綺麗さの押し付けや写っているものの魅力でのゴリ押しとかではない、その写真にははっきりとけどわからない不思議な魅力があったことを今でも鮮明に覚えています。誇張するではなく佇んでいるような構図、見れば見るほど浮かび上がってくる細部、画面全体を滑るように動いてしまう自分の視線……。気付いたら1時間ほどずっとその写真の前に立っていました。当時全く掴めなかったその魅力は10年経ってやっとほんの少しだけ理解できるようになってきましたし、その作品の持つ要素を少し組み込んだものを作品として制作できるようになりました。

 話を戻しましょう。私の場合は写真を始める前にそのような写真作品の鑑賞体験があったので、写真の魅力は万人受けするものだけではなく、疑問を抱かせたり恐怖を抱かせるものでも何でも良い、その写真を見た人の心が揺さぶられる「ナニカ」だと考えています。そのため、私には価値観が押し並べて統一されているような、小学校時代の道徳の授業みたいな薄気味悪さを今の状況に感じているのです。

 写真の魅力や価値観などについて、これ以上話すとそれがメインとなってしまうので、また今度しっかりと記事を書こうと思います。

写真と機材について

 ようやく本題の入り口に差し掛かりました。

 写真はかなり特殊な表現です。カメラマンが全てを操作しているように感じられるかもしれませんが、全てはカメラが設定した通りに光を受け止めているだけです。例えば、ライティングや被写体、画角、カメラの設定など、ありとあらゆる条件が一致した状況下にて、素人とプロフェッショナルが全く同じタイミングで撮影した結果には違いがでません。写真は機械的な性質が強く、自らの手で作り上げる絵画などとは違った表現と言えます。写真を表す言葉の一つとして、写真術の発明者の一人、ウィリアム・ヘンリー・フォックス・トルボットが著した世界最初の写真集「自然の鉛筆」のタイトルは個人的に秀逸だと思っています。当時の自然科学を嗜んでいた人間は世界の認識に対してすごく教養がありますよね……

http://www.akaaka.com/publishing/books/bk-pencil-of-nature.html

 もちろん、実際にはアングルの選択や距離の取り方、光の読み方やライティングなど様々な要素で個性が出ます。しかし、それ以上にも私たちはカメラというモノに縛られて撮影している、ということを忘れてはいけません。カメラという機材を意識して選択していかなければならないのです。

作品と機材について

 やっと本題です。機材を選べというと、機材好きの人達の言うようにスペック盛り盛りのお高いカメラを選べばOKというイメージを持たれるかもしれませんが、そんなことはありません。自分の撮りたいもの、作りたいもの、自分の置かれている環境を考え、必要な性能を持つカメラを財布に相談しつつ買えば良いだけです。

 私は写真を始めて5年くらい経つまでは撮れば撮るほど上手くなると思っていたので、昼は50mmのレンズを付けたMFのフィルムカメラで撮影し、夜は暗室に籠る日々から始まり、そこそこのAPS-Cのデジカメ、AFフィルム一眼、二眼レフなど様々なカメラを手にしては手放していました。その時は「悪くないんだけど違う、シャツのボタンが1つズレて留まっているような」違和感をずっと感じていて、それも自分の技術の無さからくるようなものだと思っていました。

 撮れども撮れどもしっくり来ない日々が続く中、ある時4:3の比率で撮れるチェキで撮影する機会がありました。普通のカメラの比率は大体3:2であり、例に漏れず私も3:2の比率で撮れるカメラをメイン機材として使っていましたがチェキの撮りやすさには驚きました。自分の写真と思えないほど良い写真が撮れたのです。そんな些細なきっかけで画面比率の重要性、撮りたい作品との相性に気づき、直ぐに645中判フィルムカメラを買いにいきました。

 この時は運良く気付くことができましたが、振り返ればもっと早く自覚するチャンスはあったはずでした。私は東京の美術館やギャラリーによく展示を見に行っていたので、自分の好きな作家が何を使っているか、どのような共通点があるのかしっかり考察していれば気付くはずでした。当時の私の学ぶ姿勢の無さが、遠回りをさせていました。

 これからカメラとレンズを買う人、買い替えを考えている人は参考にしたい人、憧れの人の作品、機材を良く見てください。できればめちゃくちゃ好きな人を何人か見つけて、その傾向を見ましょう。そしてその機材が、なぜその作品を制作するのに使用されたのか、なぜ自分はその作品に心を動かされるのか考えてください。自分の中で自身のある答えができ、その作品に必要でしたら機材の本当の替え時、買い時かと思います。

 ちょうど中判にした頃に私も写真について勉強し直し、何が自分に求めているものか自分なりに分析できました。懇意にしていた近所のフィルム現像ラボがなくなりフィルム645からデジタル中判にするときも、そのおかげで滞りなくスムーズな移行ができました。一枚の質で見るとフィルムの645には立体感や色味、ラティチュードなどで敵わない部分もありますが、私は40枚程度の写真を組み合わせて作品とすることが多いため、デジタル移行により撮影可能な枚数が大幅に増えたことで作品全体の質でみると大きく向上したと言えます。

現在の機材とこれからの機材

 現在はPENTAX 645Z、SIGMA fpの2つの機材を作品制作で使っています。お仕事は別会社のカメラを使っています。

 スペックも金額も高いじゃん!と思われる方もいるかもしれませんが、実は出る結果(=写真、映像)で言うとコスパが高いカメラ達です。どちらもニッチ層に含まれるカメラなので、一例として説明していきましょう。

645Z

 写真で主に用いている機材です。4:3の比率のセンサー、頑丈なボディ、フルサイズにはない色のダイナミックレンジと立体感。撮影時に覗く光学ファインダーの美しさ。フィルムからの移行は心配でしたが、現像の手軽さやその場で確認できることはかなりメリットに感じました。
 フィルム645時代のレンズが使えるので、安くレンズ一式を揃えられます。全て中古での購入ですが本体とレンズ5本合わせて50万円も使っていません。中判デジタルなのに。そして後継機が出ていないためでしょうか、一式売り払ったとしても6割ほどは帰ってきます(2021年1月現在)。
 大きくてゴツい外見ですが、持ってみると意外に軽く感じます。グリップは最高です。個人的にはこれとD FA645 55mmF2.8ALというレンズの組み合わせが人間の視点(35mm換算40mm程度)に限りなく近いのでお気に入りです。2014年発売のカメラですが現在のカメラと遜色ない素晴らしい画を出します。
 現在のカメラと比べ、動体をAFで追えなかったり、暗所に弱かったりしますが私の作風には関係ないことなのでこれで満足しています。

SIGMA fp

 動画撮影で用いている機材です。仕事の関係で数年前から動画も撮り始め、段々とその面白さに取り憑かれていきました。2020年だと私物ではほぼ動画系の機材にしか投資していないくらいハマっています。

 この機材の魅力は個人的に大きく分けて3つあります。
 まず何と言ってもRAWで動画が撮れること。平たく言うとめちゃくちゃ綺麗な映像が撮れます。最初に動画を始めた時、写真に比べて色の幅が狭すぎることに驚きました。それから動画の基本を学び、色々な機材を試しながら当時20万円弱で素晴らしい映像が撮れるSIGMA fpに落ち着きました。

 次にフルサイズであること。これは私にとって非常に重要なことでした。
 写真を初めて10年、撮ってきた機材はほぼライカ判と中判のカメラでした。動画向けの機材ではBMPCC4Kや6Kも綺麗な画が出せるので選択肢に上がりましたが、マイクロフォーサーズやAPS-Cでは焦点距離やボケ感などの感覚が今までとは異なるため、使用するにはストレスが溜まるかなと思い断念しました。

 3つ目は小さいこと。これも自分的に大事な要素です。
 私の動画カメラ選びは先程の645Zと一緒に持ち歩く、つまり首から2台のカメラがぶら下がることが前提です。そのため、いくら映像が綺麗でも取り回しが効きづらい大きなカメラは最初から頭にありませんでした。
 また、どこにでも馬鹿でかい645Zを持ち込みたくないと言う気持ちもありました。私は基本的にいつ何時どこでもカメラを持ち歩いていたいのですが、例えば誰かとお酒を飲んだりする際にどでかいカメラとそれが入るバッグはほぼ必要ありません。むしろ酔っ払って壊したり、どこかに置き忘れるリスクが低収入の身としては辛いです。そういった機会のための小さな写真用、記録用カメラとしてもSIGMA fpは最適でした。

 欠点としてRAW動画撮影の際には手振れ補正が効かなかったりAFが弱かったりしますが、私には必要ありませんでした。私はしっかり構えて撮る映像が好みなので、三脚や一脚を使ったり、MFを使えば十分なのです。そこが我慢できない人は、CanonやSONYのカメラを買うのが良いと思います。万能は王道です。

 もっともっと自分の愛機について書きたい気持ちがありますが、かなり長くなりそうなので何故今回この記事を書いたか、最後の部分に差し掛かります。

GFX100Sへの買い替えを検討中

 はい出ました。数日前に発表されました、中判デジタルミラーレス機です。
一般的な人から見るとお高いカメラですが、現645Zユーザーの私から見ると
「ほぼ全部入りカメラがこの価格で!?」と言うことになってます。大事件です。

 世の中の機材好きは1億画素という部分に引っ張られがちですが、ここでは645Zユーザーから見たGFX100Sの魅力を3つ語ろうと思います。

1.手ブレ補正
 脅威のボディ内6.0段手ぶれ補正。この値段の中判デジタルに乗せてくるとはかなり攻めた気がします。最近はよく聞くようになったボディ内手ぶれ補正ですが、実は一番効果があるのが中判デジタルではないかなと個人的に思っています。中判デジタルはブレに弱いです。基本的に画素数が高く、また645Zのようなレフ機ではシャッターショックによりとんでもなくブレます。基本的に私は645Zを手持ちで使用する際には1/200秒以上のシャッタースピードで撮影します。日が出ている時間や明るい環境ならそれで良いのですが、暗くなったり室内だとそうはいきません。中判デジタルは明るいレンズでも絞りがF2.8くらいまでしかないので、三脚や一脚を用いたりしなければなりません。私はフットワーク重視なので明るさが限界になったら撮影をやめるか、代わりにfpで写真を撮るといった方法を取っています。645ZからGFX100Sに変えればそれが解決し、夜でも中判デジタルで手持ちで撮れる。今まで撮れなかったものが撮れるようになり自分の作風が広がるかなと考え、買い替えを検討しています。

2.ボディの大きさ、軽さ
 とんでもなく小さいですね。本当に中判センサーと手ぶれ補正機構が入っているのかなと疑問を持っちゃいます。645Zについての文章ではその大きさ、重さを肯定しましたが一日中歩きながら撮影していると徐々にその重量が疲労に響いてきます。軽くなることは撮影できる活力が増えること、より早くより多くのシャッターチャンスに出会えることだと思います。
 また、大きさが小さくなったことによりリュック内のレンズが1本増やせます。個人的にはGFX100Sと32−64のズームレンズがあれば私の作品制作ではひとまず困らなそうですし、その組み合わせは645Zがリュック内で占めていた面積の半分ほどの大きさです。その分、SIGAM fp用のレンズを増やしたりできて映像に幅ができるかなと考えています。

3.価格
 前半で偉そうなこと言ってたのに結局そこかよ、と皆様思いますよね?しかし現実は資本主義社会、お金は大事です。
 GFX100Sには兄弟機がいます。GFX100です。

 2019年に出たこのカメラ、中身はGFX100Sとほぼ変わりません。少し大きくてファインダーがGFX100Sより良いくらいです。このカメラは発売以降、長い間645Zからの買い替えを考えさせてくれました。実は仕事の関係である程度借りることができるのですが、よくできたカメラだと思います。ただ少し嵩張るのとファインダーで見える像が645Zより感動しない、何より約120万円の価格は作品作りに用いるのに躊躇させました。性能を考えるとその価格は妥当だと思っていましたが、恨めしいのが低収入です。当時の私はPCやモニター、プリンターといった細々とした投資を先に行うことにし、それらが揃ったところで格安のGFX100Sが登場したのです。完璧なタイミングでした。

 また、価格の話と若干離れますが個人的には645Zがいつまで使えるかという懸念があります。カメラなどの家電は修理や整備のための部品保有期限があり、それが切れるとメーカーは該当の部品を持たなくても良くなります。言わば、修理できなくなると言うことです。645Zは2014年発売のカメラで、後継機がまだ出ていません。かなり気に入っているカメラですが長い期間継続して使うことができない。それは私の作品制作にとって致命的です。作品を制作する者は制作物に対して責任を果たさなければいけないというのが私の持論です。自分でコントロールできるこのタイミングで、645Zで撮影した作品をまとめ、まだ645Zがそれなりの価格で売れるうちに乗り換えようかなと考えています。

 発売記念でキャッシュバックキャンペーンもやるようですしね。

 GFX100Sについては大体こんなところですかね。読んで貰えばわかるように、手ブレ補正と大きさは作品制作のチャンスを増やすための買い替えの理由で、値段は私の環境的な理由です。画質的に645Zの出す写真には本当に満足してるんですよ。5000万画素で困ったこと一度もないですし。しかし、作品が撮れるチャンスが増える、プラス現在抱えているリスクを避ける。もちろん、自分の撮りたい作品が撮れるカメラに買い換えると言う前提の元ですが、それらの理由で買い換えるのはアリかなと自分では思っています。

 GFX100Sの唯一の懸念としてはGFX100より性能が落ちたファインダーですが、ミラーレスカメラばかりのこの時代、少しくらい慣れて行かないとかなと思って我慢することにします。コロナ禍じゃなければ東京に実物を見に行って判断できるんですけどね……

 とりあえずこの記事はここまでです。こんなに長くなるとは思っていませんでしたが、お付き合いいただきありがとうございました。おそらく月曜朝一で購入予約してきます。

 今度は写真についてか、SIGMA fpについての記事を書こうと思います。機会あればまたご覧ください。それでは。

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