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容姿コンプレックス

 誰にでも必ずあると思うが、「髪」は多くの人にとって上位を占める容姿コンプレックスの一つではないだろうか。かくいう私も、妹がサラサラストレートだったのに対し、「わかめちゃん」とか「スズメの巣」とかいうあだ名をつけられるほどのくせっ毛で(スズメの巣など見たこともなかったが)、自由に使えるお金を得てからは何度も縮毛矯正にチャレンジしてきた。

 自分の髪質や顔の骨格に合う髪型を見つけたいと思っても、多くの人は正解がわからないのではないだろうか。TV番組が「神」美容師を特集しても、首都圏の話だとあきらめてしまっていた。美容師の皆さんも、ある程度「正解」がわかっていても、本人が気にいるかどうかが不安であり、二の足を踏んでしまうこともあるのだろう。

 私も長年、美容室は白髪染めと縮毛矯正を行うところでしかなかった。とりあえず肩くらいのおかっぱ風を20年以上も続けてきたが、転機は昨年秋、グレイヘア計画の進行中に訪れた。相変わらず、肩までの長さのまま、染めた部分がなくなるまでウィッグを使い続けようと思ったが、担当美容師のMさんが、「Tさん(私)、ベリーショートなら、もうグレイヘアいけますよ!」と提案してくれたのだ。

 ショートヘアなんて小学校までで、ベリーショートなど人生初だったが、「気に入らなければウィッグを使えばいいので、やってみてください」と答えた。Mさんの言葉は「思いっきり、私の好きにしていいですか?」。

 この「思いっきり、私の好きに」が、実は「正解」だったのだと今なら思う。どんどんカットされていくのを不安には感じたが、出来上がった印象は「悪くない」だった。思えば、髪は私にとって「七難」を隠すためのアイテムでしかなかったように思う。出っ張ったおでこや形の悪い眉、ストレートネックによる首元のたるみ・・・。ある程度、年齢がいってからも、黒髪で肩までの長さがあれば、多少おしゃれに手を抜いても姿勢が悪くても、なんとか女性に見られる気がしていたのだ。

 ベリーショートにして七難を隠す武器は手放したが、出っ張ったおでこも「オン・ザ・眉毛」(もはや死語?)の前髪を形作る、とてもいい土台になっている。前髪に隠して手抜きしていたアイブロウも、丁寧に描くことが習慣になり、こちらもグレイヘアをおしゃれに見せるマストアイテムになった。首筋のシワやたるみだけでなく姿勢そのものも、肌を出すようになる春までに改善させようとストレッチまで始めた。グレイヘアに似合うワードローブやアクセサリーの総入れ替え作戦は、以前の投稿でも触れたところだ。

 そのことをMさんに伝えたら、「勘違いしている人が多いんですけど、髪型だけ変えても、その人はかっこよくならないんです。着るものやライフスタイルを髪型に合わせて変えてくれることで、かっこよくなっていくんです。私のカットがTさんの行動をポジティブに変えることができたなら美容師冥利につきるというもの。今日はいい日になりました。」

 かつては短所を隠すために通っていた美容室は、今は自分の髪を好きにさせてくれるハッピーな場所に生まれ変わった。

 もしあなたが「無難」以上に似合う髪型をまだ見つけられていないとしたら、「思いっきり好きにしていいですか?」と聞いてくれる美容師の言葉に、背中を押されてみてはどうだろうか。

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