カンヌ、その「ブランド」力
数年前に、仕事でカンヌを訪れたことがある。カンヌといえば映画祭で有名だったから、訪れるまではどんなきらびやかなリゾート地だろうと胸躍らせていた。
しかし、到着予定だったコート・ダジュール(英語だとフレンチ・リヴィエラ)が悪天候のため閉鎖となり、なんと隣国イタリアのミラノ・マルペンサに降ろされてしまった。その時点で、参加を予定していたレセプションパーティに間に合わず、時間的に夕食にもありつけない可能性が高かったため、オランダから先入りしていた友人にサラダとブレッドの調達をお願いすることにした。冷たい雨の中、代替移動手段のバス等を乗り継いで宿泊ホテルに到着したのはなんと深夜の11時過ぎ。白ワインのハーフボトルを添えてくれた友人の心遣いがなんとも暖かく嬉しかった、カンヌ初日の夜。
そして、翌朝。散歩もかねて早めにホテルを出ることにしたが、街並みから受ける印象が、日本のどこにでもある沿岸漁業+観光業の町の佇まいとどうにもかぶって仕方がない。ビーチは美しいが、美しいビーチなら東南アジアのリゾートにだっていくらでもある。期待していた眩さはあまり感じられず、「これが本当に、あのカンヌ?」という違和感が拭えなかった。建築物も街行く人もヨーロピアンで、日本でないことは明らかなのだが。
その時の旅の目的は、映画祭の会場にもなっている「パレ・デ・フェスティバル」で開催される旅行博に参加することだった。そして、そのオープニングイベントで行われたカンヌ市関係者のプレゼンでようやく先程の違和感に答えを見い出すことが出来た。
カンヌ市の人口はおよそ7万5千人(2017年・カンヌ市公式サイトより)と大きくはないが、カジノを併設した大型コンベンション施設「パレ・デ・フェスティバル」からは、美しいビーチやヨットハーバーを取り囲むように建つ様々なホテルやレストラン、ショップ等まですべて徒歩圏内にある。
その利便性の良さと映画祭のホストタウンとしての圧倒的知名度から、年間50ものメジャーな見本市や国際会議などが開催され、その交流人口による経済効果で潤う「まさにMICE国際都市」なのだ。(年間50というと、ほぼ毎週、何らかのビッグイベントが開催されている計算になる。しかも人口たった7万人の町で。)
カンヌ映画祭やヨットフェスティバルといったゴージャスなショーが開催されるたび、世界中から集まってくるセレブや関係者、観衆たちがこの町をきらびやかな色で染め上げていく。そしてそれが終われば、次のイベントの関係者たちが入ってくるまでの数日間は、本来の静かな町の姿に戻るのだろう。
レッドカーペットを歩くセレブたちのニュースが流れ始めると、どこにでもある田舎町のようだったカンヌの素顔を思い出し、親しみを重ねる自分がいる。
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