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「盲犬“あきこ”との、出会いと別れ」

秋平をオープンさせてから2ヶ月くらい経った頃。僕ら秋平に新たな仲間が加わった。盲犬の“あきお”だ。名前の由来はもちろん“あきべい”から。 当時秋平に通っていた方も、知ってる人と知らない人で別れるかと思う。それくらい隠れキャラだった。

店先にある木の根元に捨てられていたのを、社長が見つけて保護した。まだ目が開いていないくらい小さく、雨に濡れて震えていた。タオルに包んで温めて、ミルクを飲ませたら少し落ち着いたようだ。

後から分かったのだが、もともと目が開かないくらい成長が足りない状態で生まれてきていたらしい。それを“野生の勘”で気付いた母犬が捨てたと言うことだった。弱肉強食の野生の世界は怖い。

ペットを飼ったことのなかった僕はあきおを溺愛した。なかなか目の開かないあきおの瞼を軽くマッサージしたり。。。

毎日一緒に通勤。どこに行くにも一緒に連れて行った。何処へでも連れて行きすぎて、なかなかヤバかったこともある。友人を空港まで送って行った時、まだチェンナイ空港のシステムを理解していなかった僕らは、カバンの中に隠したあきおを空港内に持ち込んでしまった。外に戻ってくるならカバンをX線に通さないといけない。「バレたらあきおを殺される」とまで思っていた。当時のインド人へのイメージが酷すぎるぞ、ジョー。

僕らが実行した作戦はこうだ。何ルピーかを払って僕が見送り人専用のエリアまで入り、誰も見ていない隙を狙ってこっそりカバンごと受け取る。そのエリアはもともとカバン等の持ち込みが禁止だったので、出るときも注意が必要。「なんで持ってんだ?」ってなったら一貫の終わりである。しかし幸運なことに、たまたまカートを外に運び出す作業員とタイミングが被ったため、ドサクサに紛れて救出に成功した。

自作自演のミッションインポッシブルである。

日頃、インド人たちに対してイライライライラしていたが、あきおの世話をしている時だけは顔がほころんでいた。見よ、この息子を愛でるかのような朗らかな顔を。毎晩オネショして困ってたから、人間用のオムツを履かせたりもした。秋平のインド人スタッフたちも自分たちのメシとかをあげたりして、可愛がっていた。

ある日、流石に目が開かなすぎて不安になった僕と社長は、動物病院を探して一緒に行った。当時は動物病院なんてあるなんて思っていなかったが、ちゃんとした獣医さんがいた。いつになったら目が開くのか、僕がそう尋ねると。

『She will not open the eyes』と、まぁそんなことを言った。「きっと開かないよ」と。

僕と社長は目を見合わせ、尋ねた。

「She...???」 『Yes, she』

ずっと男だと思っていたあきおは「メス」だった。

めちゃくちゃチンチンだと思ってたものは違ったらしい。じゃあなんだよアレは。オスじゃなくメスだったという新事実の方が衝撃的すぎて「目は一生見えない」という事実がかなり薄れてしまった。

メスと診断された時の僕。なんとも言えない表情である。

即“あきこ”に改名し、スタッフたちにもその事実を伝える。みんな「目が開かない」なんてことはもうどうでも良かった。僕らは変わらず愛でた。あの、100年に一度の大洪水も一緒に乗り越えた。

実は僕、犬と猫はアレルギーだった。まだ子犬だったということもあり、あきこは全然大丈夫。その辺のことも相まって、より愛おしかったんだと思う。

その証拠に、ほら。今までの記事とは比べ物にならないくらい出てくる写真。データフォルダにめちゃくちゃ残ってた。右目のまぶたは開くけど、完全に黒目はなくて結構なホラー犬だ。聴覚と嗅覚はかなり優れていて、僕が屋上に近付いただけで「メシが来た!!」と尻尾振りまくりで近付いてきたもんだ。

ちょっと、載せたい写真があり過ぎるので、これくらいにしておく。耳が発達して、こんなに大きくなっている。エサを求めて尻尾がブレるほど振っている。

これがあきこを写した最期の写真だった。

大洪水が終わって数週間後。体内から線虫が出てきてから食欲がなくなり、その数日後に死んだ。

母親が見捨てるくらいだから、もともと体力はなかったんだと思う。でも、一生懸命に生きてくれた。インドに来て数ヶ月の僕らを癒してくれた。言わずもがな、命の儚さを教えてくれた。

拾ったことにより、生かしてしまった。そんな風に思ったこともあったけど、きっと僕らの愛情は伝わったし、あの木の根元で、愛を感じることなく死ぬよりは良かったんだ。と信じるしかなかった。

お店も本当に暇だったから(笑)、僕の暇つぶしにたくさん付き合ってくれた。こうやって改めて振り返ると一瞬だったな、と思う。でもせっかくこうやって思い出したんだ。改めて言おう。


あきこ、ありがとう。楽しかった。





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