見出し画像

『インドでの生活は、幸せのハードルを下げてくれる。』

 インド駐在員には、食材輸送サービスってのが福利厚生で付いてくるらしい(もちろん秋平にはそんな制度はない)。どんなサービスかと言うと、輸送量は会社持ちで、日本食を専用サイトから簡単にオーダーすることができると言うのだ。現在は関税で止められてしまうらしいが、当時はお酒も買えたらしい。日本食材が手に入りにくいインドという地では、大活躍必至のサービスと言える。

 単身で来ている人は◯kg、家族帯同だと◯kg、のように重量で制限があるらしく、単身者はほとんど使い切れないくらいの量が与えられていると言う。だいたいの方は買いすぎて、帰任時に残すことになる。“一年に◯回まで”と回数も制限されているので、心理としては「頼める時に頼めるだけ買っちゃおう!」となるのも分かる。

 そこで登場するのが、廃品回収屋・能條ジョーである。駐在さんがご帰任される時に、余っている日本食を僕がごっそり頂き、毎日の食事としていた。食材輸送サービスが受けられないし、一時帰国からチェンナイに戻る時には、店用のごま油やらを大量に持って帰るので、私物はほぼ持ってこれないと言う状況の僕にとっては、大変ありがたい“天からの恵み”だった。

 毎週のように来てくれていた、とある常連さんは「帰国前にごっそり掃除しなくちゃいけないから、冷凍庫に入ってるもの一旦秋平に入れさせて!そんで、取りに来るときまでに、食えるものは食っちゃって!」と、在庫一掃セールかのように全ての食材を一旦秋平に預け入れてくれた。

 インド人に揉まれて過ごしていた僕には、とっくのとうに“遠慮”なんて言葉はどこかに置いてきてしまっているので、ゴッツリうまい冷凍食品たちを食わせてもらった。こんなに大量なのは特例で、大体の方は「はい!これ!ジョーくん良かったら食べて!」と、ビニール袋一袋をホイッとくれる感じ。

 ジャパニーズテクノロジーってのは本当にすごくて、レトルト食材はマジで天才的で、大満足のクオリティを僕に供給してくれた。レトルトの親子丼、とか、レトルトのパスタソース、とか。マジで美味いのよ。口調変なんなっちゃうくらい美味いんよ。きっと保存料とか化学調味料とかめっちゃ使われてて体に悪いんだろうけど、それが美味い!

特に美味しいのが、豚とか牛とかが材料で使われているやつね。ボロネーゼとか最高。写真はボロネーゼじゃないけど、よくお世話になっていたパスタソース。これをラーメンの麺に絡めて食うのが至福のときだった。

 駐在員生活は大体2年から長い人で5年。初年度に大量に頼んだやつとかも、飽きてくると食べなくなるんだろうか。賞味期限が切れてるものも、ザラに譲り受けた。

撮影日は16年の4月とかなので、2年弱過ぎてた。でもめちゃくちゃ美味い。味全く変わってない(期限切れてないのを食ったことないから分からないけど)。いや、2年弱切れてるのに味変わってないって逆に怖いけど、そんなこと言ってたらインドで生きていけないもんね。

 こんなのもあった。

 約3年弱期限が切れている即席麺。ここで学んだのは、袋麺はちゃんと期限を守ろうと言うことである。銀色のやつでしっかり密閉されてるやつは結構大丈夫だが、このビニールタイプは湿気りまくってた。流石の東洋水産でも3年の壁は超えられなかったようだ。

 また、タイへ出張や休暇に行った方から買ってきてもらって、テンションが上がるものがある。

生卵と納豆だ。

 この二つへの欲求はハンパじゃない。日本にいた時は、そこまで意識したことはなかったが、この二つがあれば白ご飯が数倍にも美味しくなる。今では一時帰国した時は毎朝納豆ご飯を食べている。3つパックの納豆が無くなってくると、自動的に追加されてるんだから日本の冷蔵庫ってすごい(お母さんありがとう)。

 インドで、生卵と納豆を食べようと思ったら、大体はタイから買ってきてもらうことが相場だった。

 魚粉と醤油をかけて食べる。もうほんと、サイコーなのだ。今見てもよだれが出る。日本で食べる生卵に比べたら、そりゃ質も落ちるんだろうけど、チェンナイで食べる卵かけご飯の方が、断然美味しく感じる不思議。

インドでの生活は、幸せのハードルを下げてくれる。

 生卵が食べられるだけで。納豆が食べられただけで。物事が時間通りに進むだけで。日本に帰って牛丼を食べるだけで。僕らインド在住者は、幸せを感じることができるのだ。これはもう最強である。無双モード、突入。

 日本で生活していると忘れてしまう、なんでも揃う有り難み。食べたいものが食べたいタイミングで食べられる幸せ。会いたい人にすぐ会える幸せ。「無くして初めて気付く大切さ」とはよく言うが、それを身を以て体感できるのが、インド、特段チェンナイと言う土地なのである。

 ※反面、腹立たしい出来事も数倍起こっていることは忘れてはいけない。

戴いたご支援金は書籍化するための費用に遣わせていただきます!サポートよろしくお願いします!